030 野菜を育てる
「ようやく収穫できたんですね」
嬉しそうに言いながらゼクシオンは出来上がったパスタを前に椅子を引いた。
「苗木から始まって、ここまで長い道のりでしたね」
「お前は何もやっていないだろう」
呆れた様子でマールーシャは言いながらエプロンを外した。
バジルを育てましょう。香りもいいし、花も咲くし、ハーブは強いから滅多に枯れないし。
ある日突然ゼクシオンがそう言って苗を持ってきたくせに、最初こそ水やり程度は参加していたものの、いつしか世話は完全にマールーシャに任せきりだった。植え替えやら摘芯やら虫の駆除やら、結局はマールーシャが甲斐甲斐しく世話をして、ようやく収穫に至ったのだった。
「あんなに虫がつくとは思わなかった……」
「努力の賜物ですね。さあさあ、冷めないうちにいただきましょう」
「こら、先に食べるな」
マールーシャは飲み物を取りに行く傍ら、わくわくと顔を輝かせながらすでにフォークを握っているゼクシオンを軽くこづいた。
バジルソースはもちろんお手製だ。よく冷えたレモネードを添えて、手を合わせる。
「いただきます……んん、おいしい」
ゼクシオンが頬を緩ませながら満足そうに味わう様子を見て、少し努力が報われた気になった。
「色も鮮やかで、香りもしっかりあって。お店の味ですよ」
褒めちぎられるのは悪い気はしなかった。パクパクと食べ進むゼクシオンをわき目にマールーシャも完成したパスタを口に運ぶ。手間暇かけたせいもあってか確かに格別の美味しさを感じた。
「まだ残ってるなら、次はマルゲリータで」
「そう来ると思った」
取れた葉は大半ソースにしてしまったが、絶対言い出すだろうと思って数枚は乾燥させている最中だ。マールーシャがそう説明すると、さすが、とゼクシオンも満足げだ。
「種が取れたから、少し分けようか」
最初に間引いた苗のうち、一株は花を咲かせようと別で育てていた。咲いた花からは、来年も育てるのに十二分もあるほどの種が取れている。
「僕はいいです」
予想に反してゼクシオンはためらう間もなくしれっと返答した。
「栽培に関しては貴方にお任せした方が確実ですから」
あっという間に食べ終えたプレートを前に再び手を合わせてゼクシオンは微笑んだ。
「次はゴボウとかどうですか」
「……せめてプランターで育てられるものにしてくれないか」
そんな休日の昼下がり。
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今日の116
野菜を育てることにした。世話はしないくせに収穫と味見ばかり手伝いにくるから小突いてやった。「おいしい」?……よかったネ。