002 挑戦

※機関員116+14
※ゆる機関

 

「変な玉ねぎをもらったの」
「何ですって?」

 突飛な話に思わずゼクシオンは読んでいた本から顔を上げていた。目の前にはシオンが困ったように立ち尽くしている。教えてほしいことがあるといいながら話しかけてきたのは彼女の方だ。両手の中に何かを大事そうに包み込んでいた。

「今日の任務で行った世界でハートレスを追い払ったお礼に街の人からもらったの。でもこんな小さな玉ねぎ見たことないでしょう。これって食べられるのかしら」

 シオンが手を開くと、なるほどそれは玉ねぎを二回りも小さくしたような形をしていた。受け取ってよく見てみると、先端からは緑の芽が覗いている。

「玉ねぎではありませんよ」ゼクシオンはそう言って続けた。「これは、球根です」

 植物に詳しいわけではないのでこれが何の球根なのかは判別できないが、食用玉ねぎでないことだけは明らかだった。球根と聞いてもシオンは腑に落ちない様子だったが、種のように土に植えて育てると花が咲くのだと教えると途端に目を輝かせた。

「玉ねぎから花が咲くなんて知らなかった。そういえばサイクスも、放っておくと芽が出ちゃうって言っていたような」
「だから玉ねぎじゃないですって」

 呆れながらゼクシオンは球根をシオンに返そうとするが、シオンは思いついたように手を打った。

「教えてくれてありがとう! お礼に、一個あげる」
「え、いりませんよこんなもの」
「たくさんもらったのよ。そうだ、他の人にも配ってこよう!」

 朗らかにそう言うと、止める間も無くシオンは駆け出していってしまった。
 一人残されたゼクシオンは、途方に暮れながら手の中の玉ねぎ、否、球根を見つめた。

 

 何事にも適材適所というものがある。

「何だこれは」
「玉ねぎじゃないですよ」
「そんなことは見ればわかる」

 案の定球根に興味を持った様子のマールーシャに、ゼクシオンは手短に事のあらましを説明した。マールーシャはふむふむと話を聞いていたが、いよいよ球根を押し付けようとすると短く「いらん」とそっぽ向くのでゼクシオンはまたしても面食らう羽目になる。

「自分で育てたらいいじゃないか。これなら水栽培ができる。土もいらないから部屋に置いておけばいい。何事も挑戦というだろう」

 そう言うとマールーシャはゼクシオンの手の中を覗き込み、小さな球根にそっと指先で触れた。
 まるで知ったようにいうのでゼクシオンはマールーシャを見上げる。

「これが、何の花かわかるんですか」
「見当はつくが、どうだろうな」

 マールーシャは曖昧に言ってから微笑んだ。

「答えを教えてくれ、ゼクシオン」

 

 

*クロッカスかチューリップ

お題『挑戦』/機関員116