密夜の約束 - 1/4

 明かりは点けない方がいい。肌は覆われたままでもいい。視界も、身体も、不自由ならば不自由なだけ良かった。失われた部分以外の感覚が研ぎ澄まされ、自由の利いた神経は一層鋭敏に相手を感じ取っていく。熱を帯びた眼差しに射抜かれて、身体の奥底がじゅわり濡れていくような錯覚に脳が痺れる。目に見えない不確かなものよりも、触れて交えて身体で得る感覚の方がよっぽど信頼できる。夜な夜なこうして求め合ってしまうのも、それゆえのこと。
 仄暗い部屋の中で組み敷いた白い躯体にそっと手で触れると、しなやかな肌はまだ熱を帯びていて吸い付くように合わさった。荒い呼吸で上下する胸の動きから目が離せない。生きているのだ、こんな僕たちでも。空虚な胸の中に安堵に似たものが湧いた気がして短く息をついた。
 胸元に口付け濡れた唇で強く吸い上げた。残された赤を見て、その出来栄えに満足して目を細める。
 嗚呼、と呟いた声は、恍惚として暗い部屋の中で響いた。

「僕のことを、忘れないでくださいね」

 感嘆か、或いは哀願か。
 うっとりと蕩けるような声は、静かに闇の中へと溶けていく。