悪い虫 - 2/3

「いい子だ」
 そう囁くとマールーシャは後ろからゼクシオンのコートのファスナーを引いて下す。前が開くとズボンのベルトに手をかけ、慣れた手つきで外すとそのまま下着ごとぐいと押し下げてしまった。ゼクシオンの呼吸が一層荒くなる。露わになった性器を片手で愛撫しながら、もう片方の手指を半ば強引にゼクシオンの口内にねじ込んだ。
「あ、ぐッ……」
「舐めろ」
 囁かれた言葉はとろりと耳の中に流れ込む。下半身への刺激に身を震わせながら、ゼクシオンは言われるがまましなやかな指を深く銜え込み舌を絡ませた。ちゅ、グチュ、と音を立てて、舌を撫でるように動くその指をじっとりと濡らしていく。
 一方で股間は大きな手に包まれて徐々に硬さを増していくし、後孔は服越しに感じる相手のそれを感じてすっかり期待してしまっていた。
 もはや抵抗する気など毛頭ない。抱かれる準備はすっかり整っている。
「ぁ……んぐ、ぅ……んんっ」
 全身で相手を感じてたまらなくなり、いつしかゼクシオンは自分から身体をすりよせていた。
 マールーシャは口元からしとどに濡れた指を引き抜くと双丘を割り開いて指を進める。唾液の助けでそこは2本の指を簡単に飲み込んだ。
「うぅん…」
 入ってきた指の感触に身震いすると、催促するようにゼクシオンは体を揺らした。
「っ……もっと……おく…」
「ここ、か?」
「いっ…!!!」
 指をいいところに掠められて仰け反る。壁についた手がかくかくと震え始める。
 太い指はふっくりと膨れたそこを、あえて避けるように周りだけを刺激する。じれったい愛撫にゼクシオンは声をあげながら堪らずに腰をくねらせた。
「も……っ、はやく……挿れてください……っ」
 このまま焦らしプレイも悪くないが、それはまたの機会にしよう。
 マールーシャは冷静さを欠いた策士殿からのおねだりに満足そうに口角を上げると、指を引き抜いて自分のコートを乱雑に脱ぎ捨てた。もう十分に硬く立ち上がったそれを取り出し、物欲しそうにひくつく秘部へと押し当てる。
 熱を感じて小さく息をのむ音が聞こえる。自ら迎え入れるように、尻を突き出す形で押し付けてくるさまがたまらなく愛しい。
 今、満足させてやる。マールーシャは深く息をつきながら力を込めて自身をゼクシオンの中へと押し込んだ。
「ああぁっ!!」
 体内を貫く相手の熱にゼクシオンは艶めかしく声を上げた。ガリリと爪が壁を掻く。たやすく迎え入れたそこは貪欲に侵入者を締め付けて離さない。熱い脈動を感じてそこは更に締め付けを増していた。
「ぁ、あ、まる……ぁっ、」
 容赦なく内臓を擦り上げられる快感にゼクシオンは高い声を我慢できない。律動に合わせて押し出されるように声が吐息に乗ってあふれ出していく。
「ひっ?! そ、そこ……ぁ、っ、イイ……っあっ」
 一度は焦らされたそこを今度は直にゴリゴリと刺激されてゼクシオンは頭が真っ白になった。壁についた手が快楽に震えながら目一杯開いて爪を立てている。腰を掴んでいたマールーシャの手がそっと上から重なり指を絡ませた。
「ほら、いけ」
 耳元で低くつぶやくようにしながらマールーシャはゼクシオン耳を食んだ。びくりと肩がはねるのを見るに、どうも耳は弱いらしい。舌先で耳の内を攻めるようにしながら身体を密着させて動きを速める。
「はぁっ、あ、あっ、だめいく、いくっ……!」
 上ずった嬌声を上げながらゼクシオンはビクビクと身体を震わせて、中への刺激で絶頂に達した。深く差し込まれたそれをキュウキュウと締め付けるあまり、マールーシャはピストンの動きを少し緩める。内壁の痙攣が自身に伝わってくる。
 荒く息を吐きながら時折喘ぐゼクシオンは実に色めかしくて敵わない。しかしこれで満足したわけではないしこれで終わらせるつもりもない。
「……っあ?! ちょっと?!」
 まだ呼吸が乱れたままのゼクシオンに構わず、脱ぎかけた服を取り払うと膝の裏に手を回して片足を抱え込むように持ち上げた。片足立ちになってバランスを崩したゼクシオンは倒れこむようにして壁に上半身を預ける。
「ぁっ、深ッ……んうぅっ……」
 まだ硬くそそり立ったままのそれが再び直腸の中へと差し込まれる。すっかり柔らかくなったそこは侵入者を簡単に許し、律動が始まるとじゅぷじゅぷと水音を響かせた。一度達して落ち着きかけた前立腺の熱は瞬時に再燃して再び脳を蕩けさせる。
「~~~~~っっ」
押し寄せる快感に集中しようと、目尻に涙を浮かべながら壁に縋りついて快感を噛み砕いていると、
「ゼク、我慢しないで声出して」
 くい、と顎を掬われてマールーシャと目が合う。行為中の、少し余裕がなくて熱を帯びた雄の目だ。ないはずの心まで見透かされるように深く覗き込まれてぞくりと肌が粟立つ。
 見とれてしまったのも束の間、マールーシャが再び動き始めると意識はすぐ下半身に引き戻された。先ほどよりも力強く足を、腰を、ぐいと引き寄せられて、またしても敏感な部分を集中的に攻められてしまう。
「うぅんっ……や、あァッ」
 燻っていた内なる熱がどんどん下腹部で肥大して、冷静な自分が霧散していく。
 何も、考えられない。相手の熱と、少しの痛みと、狂おしいほどの快感。声も、涙も、唾液さえも、すべて溢れてくるままにして、与えられる快楽に身を任せているこの時が、嫌いではなかった。
 自分を揺さぶる手が、腰つきが、激しさを増してくる。
(……あ……いきそう……?)
 マールーシャが無言で手を腹にまわしてきたのを感じてゼクシオンはぼんやりと薄目を開けた。変わらないまっすぐなまなざしでこちらを見つめている目とかち合う。
 刹那、噛みつくようなキスをされた。生温かい舌が口内を蹂躙する。粘液の触れ合うところからドロドロに溶けてしまいそうなキス。
「はン……っあ、ま……っ」
 言葉は吐息に飲み込まれて消える。じゅぷじゅぷと泡立つような水音は、上と下とどちらから聞こえてくる音なのだろう?
 答えが得られることはなかった。熱が、音が、快楽が、思考を焼き尽くしていく。余計なことを考える余裕など一切なく、視界は快感の余りチカチカと点滅するかのように瞬く。
 唇を貪りながら激しく身体を打ちつけたのち、ぐっと腰を一層強く引き寄せるとマールーシャは荒々しく熱を体内に吐き出した。
「ぁ……っあーっ……」
 自分の中で脈動を感じる。どくどくと注ぎ込まれる感覚に脳がぐずぐずと蕩けていきそうだ。
 がくんと膝が折れて大きく体勢を崩す。落ちゆく身体をがっしりと抱えられ、まだぎらぎらと光を放つ目が覗き込んできた。
「ああ…本当にお前は美しいな」
 恍惚とした表情でうっとりというとマールーシャは再び唇を寄せた。流れ落ちる涙を舌先で拾い、垂れ流された唾液はちゅうと音を立てて吸い取られる。
「どうする」
 問いかける声はまだざらざらと熱を孕んで耳すらも侵していった。体勢を崩した際引き抜かれたそこからは、放たれた熱がとろりと流れ落ちていく。
 腿を伝うその感覚に鳥肌を立てながらゼクシオンは太い腕に縋りついて荒い呼吸のまま部屋の隅を指さした。再び苛め抜かれた前立腺が次なる絶頂を求めて主張をしている。ほしい、あなたの熱が、快楽が、あなた自身が、欲しい。
「素直なのはいいことだ」
 満足そうにいってマールーシャはゼクシオンを抱え上げると指さされた先のベッドへと足を向けた。指導者様のもとへ送り出すのは、もう少し彼を満足させてからでも遅くはあるまい。
 ベッドにおろすと自ら足を開いて挿入を促すその姿に胸の内の興奮を抑えきれず、マールーシャはその上に覆いかぶさる───

 

 

 

もちろん大遅刻の末ヴィクセンから大目玉食らったのは言うまでもない。