花芽吹く君へ - 1/6

 喉の渇きを感じてゼクシオンは目を覚ました。窓の外に目をやるも、外はまだ暗い。時計を見るとまだ起床時間まで二時間ほど余している。生理的欲求にはあらがえず、眠い目をこすりながらゼクシオンは起き上がって水を汲みに行く。素足がとらえた床は、夜の空気にさらされてひんやりと冷たい。
 蛇口から流れる水をコップに受け止めると、ちびりと口に含みながら窓のそばへ寄る。間もなく夜明けのはずだが、存在しなかった世界はのっぺりとした暗い闇をまとって重く沈黙していた。ダークシティのネオンが眼下に広がる。見慣れた、変わり映えのしない景色を見ながらゼクシオンは、自分も変わり映えのしない日々をただ生きていくのだろうとぼんやり考えていた。漆黒の夜空を背景に、鏡のように反射する窓ガラスに映った自分と目が合うと、コップに残った水を飲み下して顔を背けた。足が冷えかけている。コップを戻してから早足にベッドに戻ると布団の中に素早くもぐりこんだ。数分前の自分の体温がまだわずかに残っていて、その体温にすがるようにゼクシオンは身体を丸め、再びゆっくりと意識を手放していった。

 次に目が覚めると、頭が薄らぼんやりしていた。普段はもっとしゃっきり目が覚めててきぱきと動き出せるのだが、今日はなんだか身体が重い。昨夜、変な時間に起きたからだろうか。まさか身体を冷やして風邪を引いた? まだ覚め切っていないたるんだ身体に酸素を送り込もうと、身体を起こし大きく伸びをする。……、うん、大丈夫。起き上がってみればいつも通りだ。ベッドから降り、顔を洗う。水を飲み、身支度を整える。

 また変わり映えしない『今日』が始まる。これからも、ずっと──。

 この時は、まだそう思っていた。