n回目
浴室を出てまだ火照った身体のまま部屋に戻ると、自分のベッドの上に伸びている人物を見付けた。入るときは一緒だったのに、身体が洗いあがると素っ気なく先に出ていってしまった。
近くまで寄って顔を覗き込むと、かろうじて起きている様子ではある。風呂に入る前に変えておいた新しいシーツは、先程までそこで熱を上げていた二人など知らぬ様子で素っ気なく冷えている。火照った身体に心地いいのだろう、風呂から出た格好のまま四肢を投げ出してゼクシオンはベッドに伏していた。
「おい、髪を乾かさないか」
これから眠りにつくベッドが濡れているのはいただけない。しかし声を掛けても返ってくるのはけだるげな生返事のみだ。精魂尽き果てたのだろう。
「シーツが、冷たくて気持ちいい」
うっとりとゼクシオンはそういった。語尾が掠れたその声を聞いて、不意にこみあげる何かを感じてマールーシャは無防備に投げ出された身体をじっと見つめた。
うなじに濡れた髪が張りついて肌の白さが際立っていた。熱も引いて本来の白さを取り戻しつつあるその肌の上に、真っ直ぐ一本通った背骨が浮き出ている。そのおうとつに指を這わせ、軋むほど抱いた感触を、この手はまだはっきりと覚えている。
穏やかな呼吸で上下するその背中に惹かれマールーシャはそっと肌の上に指を置いた。うすい皮膚の下の硬い骨を、確かめるようにゆっくりと上から下に向かった撫でた。それだけであきたらず、ベッドに乗りゼクシオンに覆いかぶさると、濡れたうなじにそっと口づけた。濡れた髪の毛をかき分けて、見えないであろう部分に歯を立てる。強く吸うとゼクシオンは少し首をすくめる動きを見せるが、構わずに何度か吸い付いたあと、指で撫でたのと同じ道を舌先でたどった。尾骨まで行きつくころには、先程までの穏やかな呼吸は消えていた。顔をあげると、訝しげにこちらを見つめる青い目と目が合う。
「嘘でしょう? もう、寝るって言ったじゃないですか」
彼の言うとおりだった。今更もたげる情欲など残らぬくらい夢中で過ごし、やっと互いの気が済んで、寝る前にとシャワーを浴びたまさにその後である。おぼつかない足取りを支え、あらゆる体液でしとど濡れたその身体を清めたのはマールーシャだ。しかし――
「寝ていたらいい」
マールーシャはそう言うと、白い肌の上に再び歯を立てた。気付いてしまったら、なかったことにはできそうになかった。
歯と歯の間から舌を伸ばしくぼんだ骨を押し上げると、それまで緩んでいたゼクシオンの身体に力が入ったのが分かる。両手で、緊張した様子の尻をほぐすように揉むと、割開いたその先にすぼまった穴を見付けた。小さなすぼまりなのに、さっきまで自分の逸物がすっかりおさまり、あまつさえ好き勝手中を蹂躙していたのだ。この小さな穴が――と思うと、更に高まった。口のなかが潤い、舌先から唾液が伝い白い肌と繋がる。
先程までの残滓は跡形も残らない、清めたばかりのそこに、マールーシャは躊躇いなく舌を埋めこじ開けた。息を飲む音がしてビクンと波打つ身体を押さえ付けながら、わざと聞こえるように音をたて、羞恥を煽るように抜き差しを繰り返した。さらさらと乾いていた肌が、再び内側から熱を持ち始め、触れる部分はしっとりと汗ばみ始めていた。堪えていたのであろう声が漏れだすまで、執拗に続いた。
くぐもった声が上がり、抑え込んだ身体が短く痙攣すると、次に訪れた脱力と共にようやくマールーシャは顔をあげた。新しくしつらえたばかりのシーツは、ゼクシオンがしがみついていたせいですでにしわくちゃだ。顔の近くまでいって唇を寄せようとしたが、あらぬところを舐めたせいか、嫌そうに顔を背けられた。仕方がないので、再び下半身に意識を向ける。開かせた足の間に身体をねじ込んで、濡れそぼった後ろに高まった屹立を押し当てた。様子を窺えど拒絶はない。すぐには入れず、唾液で濡れたそこに馴染ませるように入り口を何度も往復させていると、やがてゼクシオンが音を上げた。
「信じられない……なんどめ……」
そう呟きながらも、されるがまま身体を返され二本の腕はマールーシャの首にまわる。背中に伝う指の感覚が、真似るように背骨をなぞった。脊椎から腰に向かって駆け抜ける衝動を、もう何度目かわからないキスを交わしながら、突き進めた。へばっているかと思いきや、彼の方こそ変わらぬ熱をもって再びマールーシャを締め付けた。堪らずに息を震わせると、ゼクシオンは腕に力を込めてマールーシャの頭を掻き抱く。
そう長くはもたなかった。衝動的な欲求を素直に打ち付けると、ほどなくしてゼクシオンの中に自身を注ぎ尽くしてマールーシャは崩れ落ちた。今度こそ空っぽだし、さすがに疲れが回っていた。ゼクシオンの手がゆっくりとマールーシャの髪を梳くので、ふと思い出した。そういえば、彼の髪を乾かさねばならないのだった。
しかしもうそんな気力は微塵もなかった。身体を起こすことすら、もうかなわない。
20220313