黎明

 夜明け前、目はすでに覚めていた。閉めそびれたカーテンの隙間からは朝の気配が滲んでいる。淡いヴェールのような青が少しずつ溶けていくようにゆっくりと白んでいく。ぼんやりと明るい、全ての原点の色。朝日が昇る寸前のこの時間、世界は白色に染まる。その瞬間を見つめるのが好きだ。

 隣に寝ているはずのゼクシオンが身じろぎをした。窓の方に身を乗り出したせいで起こしてしまったのかもしれない。部屋が白く染まっているのに眩しそうに目を細めながら、何事だろうと視線を彷徨わせている。起きるにはまだ早い時間だ。マールーシャは体勢を戻すと、寝かしつけるような気持ちでそっとゼクシオンの髪を梳いた。安心したようにとろとろと瞼が下りてゆく。そのまま眠ってしまうかと思いきや、意外にもゼクシオンは口を開いた。
「もっと、こっちに来たほうがいいですよ」
 うわごとのようにむにゃむにゃそう言うと、ゼクシオンは腕を伸ばしてマールーシャの背に回した。
「狭いんですから、端の方は危ない……」
 彼の部屋のシングルベッドは、二人並ぶには確かに広いとは言い難い。足を伸ばすとはみ出してしまいそうだから、寝るときは身体を折り曲げるなどしてなんとか収まるように工夫が必要だ。ベッドから落ちないように、恋人を潰してしまわないように、あれこれ気を遣いながらも、その窮屈さはどういうわけだか居心地がいい。
 寝ぼけているくせに、マールーシャを抱いてゼクシオンは自分の方へと力を込めた。布団からはみ出した足にも、自分のそれを絡ませる。ぴたりと身体を寄せてると、触れる体温に安心したのか寝息は再び深くなっていった。寝る前は、やれ暑いだ狭いだで逃げるように壁際へ張り付いていたというのに、とマールーシャは夜半の出来事を思い起こして思わず頬を緩ませた。寝ぼけていると素直らしい。覚えておこう。

 カーテンの隙間から陽が差した。朝日が昇ったようだ。白一色だった世界は徐々に温かみを帯びていく。

 

20220424