朝帰りをしよう 2
押さえ付けられながらもがいていたせいで、身体の表面はもう薄く汗の膜を纏い始めていた。できる限りその体温を享受しようと、身体を密着させたまま服をはだけさせていく。ひとときでも離れるのが惜しかったけれど、マールーシャはキスの合間に身体を離すとシャツを脱ぎ始めた。慌ててそれに倣うようにゼクシオンも着崩れていた服を取り払う。理性が戻ってこないうちに、はやく、と。脱ぎ終わって顔をあげると、同時に着ていたものを放ったマールーシャと目が合った。熱いまなざしを受け、胸をぎゅうと掴まれたような気持ちになる。ああ、と声に出さずその先に浮かんだ感情を噛みしめた。きっと、相手も同じことを考えてる。
すぐにまた身を寄せ合い、ベッドに身体を沈めた。キスの合間に相手の指が自分の中に入ってくるのを感じる。冷たいと思ったのは一瞬、粘液を指に纏わせてからだの奥を広げようとマールーシャが触れているのが分かった。潤滑剤なんていつの間に用意されていたのだか全然気が付かなかった。余裕がないのは自分もか、とゼクシオンは考える。だって、スキンを装着するこの僅かな時間すらもどかしくてたまらないのだ。
押し当てられた熱がまっすぐに身体を開いていく。久しぶりの感覚に、我慢できず声が漏れた。最初からマールーシャは奥を目指して動きだした。
「ふ……っぅ、あ」
急な圧迫感にゼクシオンは喘いだ。まずい、と思う。声を噛み殺すどころではない。入れられただけでいってしまいそう。そんなのだめに決まってる。期待していたことが、これを待っていたということが、相手にわかってしまう。唇を噛み、首に回した腕に力を込めなんとか己の高揚を抑え込もうとした。触れ合う部分がすぐに汗ばんでいく。
相手の動きが止まり……と思いきや、マールーシャはゼクシオンを抱いたまま身体を震わせた。短い痙攣が断続的に訪れる。
「……えっ、……いったんです?」
なんと、相手の方が入れただけでいってしまった。予想外の出来事に驚きながらゼクシオンは腕の中のマールーシャの表情を覗き込もうとする。そんなに余裕がなかったなんて。
震えが止まってからマールーシャは顔をあげてゼクシオンと目を合わせた。目が合った瞬間ぞくりと肌が粟立った。そんな目で見られたら……。
「だから、待てないって言っただろ」
彼にしては余裕のなさそうな声でぶっきらぼうに言うと、マールーシャは再び身体を沈めて動き出した。様々な感情に翻弄されているうちに、ゼクシオンもすぐに最初の絶頂を迎えることとなる。身体の奥が収縮し、咥えこんだ相手を離すまいとしてゼクシオンも声を上げていた。マールーシャはゼクシオンの様子に気付いているのかいないのか、けれど自身の動きを止めようとしなかった。荒々しい動きに意識まで翻弄されていく。本能のままに身体を使う様子は、もはや獣のようだった。
いとしい、と思う。揺さぶられ続けながら、ゼクシオンは動きの止まらないマールーシャの肩に縋り歯を立てる。汗ばんでいるせいか塩気を感じる。濃厚な甘い香りを深く吸い込むと、自分の中の火が空気を得たように更に燃え上がった。跡に残るくらい強い力で相手にしがみつく。五感を全て使って相手を感じなければ気が済まなかったのだ。
衝動的な二回目が終わると、少し冷静になった様子でマールーシャは身体を離した。まだ芯を持ったそれが抜け落ちていくとき、名残惜しさに声が出そうになるのをゼクシオンはまた噛み殺す。
「見てみろ、すごい量」
スキンを外して口を結んだらしくマールーシャは得意げに言ってきたが、別に見たくもないのでゼクシオンは生返事だけした。
マールーシャが何かを探して視線を彷徨わせているのに気付くと、ゼクシオンがそれを制した。
「……いいですから、はやく、つづき」
そう言って肩越しにマールーシャを振り返りながら、ゼクシオンはおのずと足を少し開いた。二人を隔てるものなんか、なくていい。
マールーシャもゼクシオンの意図を理解して、すぐにまた向きなおった。瞳に炎を宿したまま。
ああこれで、やっと彼の意識を独り占めできる。
20231231