もしも心があったら

「もしも心があったら、僕は貴方を好きになってしまうかもしれない」

 ぽつりとつぶやいた言葉に、服を着ようとしていた彼の手はぴたりと止まった。彼も心はないはずだけど、その表情はひどく驚いているように見える。

「突然どうしたんだ」
「ふと思っただけです」
「……今日はそんなに良かったか」
「いつも良いですよ」

 淡々と答える僕に彼は複雑そうな顔を向けた。
 好きだとか愛だとか、僕には心がないからわからない。簡単にそういった言葉をぶつけてくる彼曰く、それは「手放したくないと思う気持ち」なのだそう。
 今は感情がわかない分、肉体的な快楽にしがみ付くことしかできないでいるけれど。
 もしも、心があったら───

「それならば、」

 彼の手はいつの間にか顎を掬っていた。

「キングダムハーツの完成を急がなくてはな」

 いつもは拒む彼からの口付けを、その日僕は初めて受け入れていた。

 

20180610