血化粧

コートのチャックを下げると太い首とくっきり浮き出た鎖骨が露わになる。
吸い寄せられるようにその首筋に唇を這わせた。
軽く吸うようにしてちゅ、ちゅう、と音を立てるとゴクリと喉がなる。
ああ、生きている、こんな僕たちでも。
脈打つ微動を感じると高鳴りめがけて歯を立てる。

最初は甘く、だんだん激しく。
食い込んだ歯に力を加える。ズプリと歯が皮膚を破る。
口内に広がる血の味はお世辞にも甘いなんて言えたものではない。
流れ落ちるままに、さらに歯を食い込ませる。
首の皮膚は柔く、血はみるみる溢れ出して口元を濡らしていった。
歯が肉を抉る。血がとめどなく流れる。

「おい」
低い声に一瞬我にかえるとその隙に髪の毛を乱暴に掴まれて引き剥がされる。
「ずいぶん情熱的じゃないか」
優雅なる御仁は楽しそうだ。
口の中に溜まった血を床に吐き捨ててから微笑み返す。
「貴方、赤がよくお似合いですよ」
桃色の髪に良く映えて。
錆びた鉄のような血の匂いも、花の香りと相まって独特の色気をおびて。
首元の血を指で掬うと彼はその指で僕の唇をなぞるように撫でて云う。
「そっくりそのまま返そう」

ほら、こんなに美しい──……

 

20181224