優しくしないで

 痛いか、と彼は聞く。初めてでもないのに、馬鹿みたいに丁寧だ。
 身体をほどかれていく過程で、体内に入ってくるなかで、動きに力を加えながら、毎度彼は聞く。聞かれているときは、実のところ大抵痛い。が、いつも強く首を振る。痛くないわけじゃない。でも、その配慮が煩わしい。
 もっと乱暴でいいんです、僕の意思なんて捩伏せてしまうくらい、自分勝手にしてください。そうすれば僕は被害者で、こんなことになったのは貴方のせいで、僕は悪くなくて、こんな気持ち、すぐに消えて無くなる。
 貴方なんか嫌いだ。

 そうか、って、なんでそんなに余裕面なんですか、本当に腹立たしいですね。
 あ、やめてください、髪を撫でないで。僕は女性なんかじゃない。
 熱っぽい目でみつめないで。もっといつもみたいに、冷めた目でないと、胸の内がざわつく。

 頭の中でぐるぐると考えていると遮るように名を呼ばれてハッと顔を上げる。すぐ近くに彼の顔があって、目は少し潤んで熱っぽくて、何より顔を包み込む手のひらがとても熱い。触れたところからとろけてしまいそう。

「違うことを考えているな」
 見透かされるように言われて少し慌てる。
「こっちに集中しろ」
 そういうと彼は有無を言わさずキスをした。そうだ、それでいい。キスは強引な方がいい。僕がしたいわけではないから。
 触れるだけの隙だらけのキスなんてだめ。息ができないくらい荒々しくして、考える隙を与えないで。そう、ほら、もっと、もっと――…

 

 優しくしないでください。
 好きになってしまうから。

 

20190522