隣に貴方がいる朝

 目が覚めると桃色の頭髪が眼前に広がるのを見て、おやとゼクシオンは目をしばたいた。早朝四時、普段ならまだ寝ている時間だが、不意に目が覚めたのだ。隣の恋人はこちらに背中を向けているが、ゆったりとした息遣いからまだ寝ていることがわかる。
 意外な光景にゼクシオンはすっかり目が覚めてしまった。目覚めた時に彼がまだベッドの中にいることはとても珍しい。眠りにつくときは一緒にいるはずなのに、彼の部屋でも自分の部屋でも、いつも目が覚めるとベッドにいるのは自分一人だった。
 もぞもぞと布団の中でにじり寄る。広い背中に手を伸ばしかけるが、起こしてしまうだろうか、と考えて手を引っ込める。あまり眠れていないであろう彼の貴重な睡眠時間を邪魔したくなかった。
 少しでも休まればいいと思いながらその背中を眺め渡すと、肩のあたりに赤い引っ掻き傷がうっすらと残っているのに目が止まる。意図したものではないが、昨晩自分がつけたものに他ならない。
 爪は整えているつもりだが、もう少し短くしたほうがいいだろうか、と自分の手を眼前にかざす。申し訳ないなと思う反面、自分の痕跡がずっと消えなければいいのに、などと稚拙な所有欲も脳裏にちらついた。
 背中に口づけるのは彼が目覚めてからにしようと決め、まだ夢の中の彼がまとうあたたかさをほんのりと感じながらゼクシオンはもう少しだけ近づいた。
 今日こそは彼におはようを言いたい。

 

20190522