涙の理由

 背中にぱたぱたと滴り落ちる液体はやけに熱く感じて、汗とも精液とも違うと何故かわかった。

「泣いてるんですか」

 心もないのに? と聞くと、相手は不機嫌そうに後ろからゼクシオンの頭を、その大きな手で鷲掴みにした。返事はなく、そのまま頭をベッドに乱暴に押し付けられる。シーツに顔が埋もれて息苦しい。しかし相手は構うことなく、自由を奪われたゼクシオンを背後から強く突き上げた。痛みが下腹部から脳まで突き抜けるようで、ゼクシオンはシーツの間でくぐもった悲鳴をあげる。余計な一言に苛立っているのか、激しい動きはまるで内側から体内を抉るようだ。

 いつも、後ろから犯された。
 動物的で、機械的に、彼が満足するためだけにいいようにされていた。満足しているのかもわからない。生産性のないこの行為が何度となく繰り返されているのは、これではまだ彼の胸の内が満たされないからだろう。
 誰と重ねているのだろうか。貴方の過去を、僕は知らない。

 激しさを増す揺さぶりの末、どくどくと体内に吐き出された熱を享受する。静かになった部屋には吐息しか聞こえない。ぱた、ぱたりとまた背中に熱。
 ごつ、と後頭部に軽い衝撃を受けた。彼が額を預けているのだろう。
 好きにすればいい。誰かの代わりなんて簡単だ。それでこのひと時でも貴方が手に入るのならば。

 シーツを握る手にそっと指を絡めてゼクシオンは目を閉じた。

 

20190522