103 ふざけてポッキーゲームを始める
食卓の方から何かのパッケージを開ける音が聞こえてきた。外装を破る音が止んだかと思うと、後に軽い咀嚼音が続く。ソファにかけていたマールーシャは読みかけの本から顔をあげると、音のする方に向かって声を掛けた。
「ティータイムのお誘いは聞こえなかったが」
食卓の方からゼクシオンが振り返った。手には食べかけの菓子が握られたままだ。
「ちょっと小腹が空いてしまって。お茶はなしですよ」
「何かいれようか」
「いえ、もう夕食も近いですし」
時計を気にしながらも食欲には抗えないようで、手の中の一本を食べ進むとゼクシオンは続けてもう一本取りだした。チョコレートがたっぷりついたタイプのポッキーだ。サクサクと食べ進む横顔はなんだか小動物的で面白い。文庫本に指を挟んだままマールーシャはソファの背越しに身を乗り出した。ゼクシオンがこちらを見るので、薄く口を開けてその手に握られたものをねだる素振りを見せる。意外そうにゼクシオンは、そんなマールーシャと手の中の菓子とを見比べた。
「こんな庶民的な物食べるんでしたっけ」
「なんだって食べるぞ。見ていたら欲しくなった」
「ふうん」
食卓から立ち上がるとゼクシオンは菓子箱を持ったままマールーシャの方へやってきた。新しい一本を取り出すと、口を開けたままのマールーシャにそれを向ける。マールーシャもそれに向かって素直に噛り付いた。与えられるがまま先程の彼のように、さくさくと含みを進めていく。
「餌付けしている気分」
ゼクシオンは愉快そうに言った。指先は、マールーシャの唇に触れる前についと離れていく。
食べ終わってマールーシャがまた次を催促するので、ゼクシオンもまた一本取り出して同じように口元に差し出した。
咥えたそれを、相手の方に向けたのは何の気なしのつもりだった。
さっきと違って食べ進まずに、唇で器用に固定しながら相手の方へ持ち手を向けていると、ゼクシオンはほんの少し思案する様子を見せた。誘うように先端を揺らすと、釣られるようにしてゼクシオンは膝を少し曲げ、マールーシャと同じ目の高さになる。こぼれかかる前髪を耳に掛けながら、差し出された枝に同じように歯を立てた。伏せられた睫毛が落ち着かなげに揺れている。
さく、とマールーシャが一口食べ進むと、我に返ったようなゼクシオンの丸い目がこちらを見た。深い青が、驚きに染まったまま遠のいていった。
「なんだ、終わりか」
「すみません、つい」
「つい?」
マールーシャは笑う。きまりが悪くなった様子で、ゼクシオンはもっていた菓子箱をマールーシャに押し付けた。
「あげます」
「私はもういい」
「僕も、もうお腹いっぱいです」
目線を逸らしながらいうゼクシオンの耳が色づき始めたのをみて、マールーシャは読みかけの本をテーブルに置くと追うように身を乗り出した。
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今日の116
ふざけてポッキーゲームを始めるが段々そんな雰囲気になってきて恥ずかしくてやめる。