005 マーガレットを育てる

 小さな小さな苗木のポットをもらった。ビニール製の黒いポットの中で若々しい緑を目一杯広げているその姿は健気なもので、普段園芸なんてしない自分でもどこか庇護欲を掻き立てられた。

「初心者でも簡単に育てられる」

 マールーシャはそう言いながらポットを丁寧に包んで持ち運べるようにしてくれた。

「土いじりが趣味だなんて知りませんでしたよ」

 受け取った包みを覗き込みながらゼクシオンは思ったまま口にする。体格のいいところをみるにスポーツでもやっているかと思いきや、意外とそちらには明るくないのだと彼は笑った。本当だろうか? 大きな背中を丸めて花壇に向かう彼の姿など想像できなかったが、初めて知る意外な一面を目の当たりにして、ゼクシオンは忘れずに覚えておこうとこっそり胸の内に思う。
 構わずにマールーシャはその小さな苗の育て方を話し始めた。ポットから鉢植えに植え替えれば、あとは水やりを怠らなければすくすく育つという。

「……なぜ僕にくれるんです」

 些細な疑問が口をついて出た。マールーシャから何かを貰う謂れはない。理由もなくそう言うやり取りをする関係でもない。彼と自分の関係性など、自分が一方的に見つめているだけのものだった。

「花が咲いたら見せてほしい」

 質問はかわされたのだろうか、マールーシャはそう言うと立ち上がって部屋のドアを開けた。用は済んだから帰れということだろう。いつでも彼は掴みどころのない人だった。小さな苗木を大事に抱えてゼクシオンは促されるまま出口に向かう。
 部屋を出る間際、出口に立っていたマールーシャがふとかがんだのでゼクシオンは思わず足を止めた。

「質問にはその時に答えよう」

 耳元に吹き込まれるようにしたその言葉に、ゼクシオンは唖然としてマールーシャを見返した。マールーシャは意味ありげに微笑んでいた。またひとつ、知らない表情を知ってゼクシオンは静かに高揚した。

 

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今日の116
マーガレットを育てることにした。ピンクのマーガレット。花言葉は「恋占い」「秘密の恋」「真実の愛」。この恋の行く先はどうかな?花も恋も一緒に育てていきましょう。