010 手を繋がないと出られない部屋
「またこの類の部屋ですか……」
ゼクシオンはうんざりしながら今回の課題が書かれた壁の一面を睨みつけた。
ドアすらない密室。部屋にはマールーシャと二人。そして、この部屋を出る唯一の鍵となりえそうなこの一文。
「しかし今回はだいぶ簡単だな」
そういうマールーシャはにこにこしながらもうすでに手を差し出している。わけのわからない状況だというのに楽観的なものだ。ため息をつきつつも、前回のように長居をしてしまうわけにはいかないのでゼクシオンは苦い顔をしながらもマールーシャと向かい合い、差し出された手を握った。
「これでは握手なんじゃないか」
苦笑しながらもマールーシャは手を握り返す。
「いいんですよ、物理的に手が繋がっていれば」
なげやりにゼクシオンは言うが、待てど部屋が開く気配はない。
「おかしいですね。目的は達成しているはずですが」
「どなたかの御眼鏡には適わなかったようだぞ」
そういいながらマールーシャが指さす方をみれば、手を繋がないと……と書かれたその下に新たな文字がいつの間にか浮かび上がっていた。
『それは握手です』
「……このふざけた部屋は誰かの陰謀なんでしょうか」
怒りに身を震わせるゼクシオンを見てくすくすと笑ったのち、マールーシャは握っていた右手を離して左手で握り直した。ガコンと音がして壁の一部が外れて外に続く道が現れる。
「素直に従うのが一番の近道という教訓だ」
「そんな落ちは求めていませんよ。ちょっと、道が開いたんだから離してください」
噛みつくようなゼクシオンに構わず、マールーシャはそのまま手を引いて部屋から外へ続く道へ足を踏み出した。
「次はどんな部屋に閉じ込められるのか興味深いな」
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今日の116
手を繋がないと出られない部屋に閉じ込められる。スムーズに手を取り合うが、部屋のシステムに「それは握手です」と文句をつけられる。