115 もっと××××
不機嫌の理由は植物の所為だけではない。わざわざ部屋に呼びつけておいて、こちらには一瞥もくれず背を向けたまま甲斐甲斐しくその色彩の世話を焼いている男の後姿が一番気に入らない。こんなに部屋を花だらけにしてしまって、いったいどういうつもりなのだろう。彼の司る属性が花であることは周知の事実であるが、それにしても私室をこれほどまでに自由に手を加えている例は初めて見たかもしれない。お仲間を侍らせていると気が休まるとでもいうのだろうか。私室なのだから口を出すべきでないことは承知の上だが、出入りが頻繁だとこちらとしても見過ごしがたい。
催促するのも癪なので、黙ったまま背後から少し近付いて部屋の一角を占める植物らに目を凝らした。硝子の花瓶や鉢が所狭しと、しかし整然と並べられている。立派な鉢植えに植わったものは、どこかから購入してきたのだろうか。彼の能力で得られるものの範疇は超えている気がした。花の名前はゼクシオンにはどれもわからない。
部屋主は相変わらず植木鉢に夢中だ。甲斐甲斐しくすべての鉢を見て回り、見頃を終えた花や葉を切り落としていた。丁寧な所作を見ていると、それはまるで心ある人間の趣味であるかのようにも思える。ノーバディ風情がいったい何故こんなことに時間と手間をかけるのか、ある意味では興味深い。
ようやくそれらの作業が終わったかと思うと、今度はこれまたどこから出てきたのか、銀色の如雨露を手に取って花々に水を遣り始めた。この広い城の一角で部屋に植物を生い茂らせ、あまつさえ水浸しにしていることが指導者および副官殿に知れたら、いったい彼らはどんな表情を見せるのだろうか。
相変わらずこちらには見向きもしない彼にはすっかり呆れていた。こちらだって暇ではないのだ。
よく聞こえるように大きくため息をついてから、ゼクシオンはドアの方に向き直った。出直すことにしよう。この時間は、お仲間の世話焼きに夢中なのだと覚えておこう。そう考えながら、出口に向かって足を踏み出そうとした。
「こら、待て」
すぐ耳元で声がするのと、音もなく伸びてきた腕が腰にまわって行く手を阻まれたのとが同時だった。まだ片手に如雨露を持ったまま、いつのまにか背後に来ていたマールーシャがゼクシオンを片腕で捕まえていた。植物ばかりに囚われていたかと思われた彼の青い目が、今は真っすぐに自分を見ている。
「意外とせっかちだな」
「なっ……呼び出しておいてなんですかその言い草は」
憤慨しながらゼクシオンは絡みつく腕から抜け出そうともがけど、片腕ながらがっちりと巻き付いたそれはそうやすやすとは放してくれない。
「すまない。でも、彼らも生きているから」
彼ら、と言いながらまたマールーシャは植物の方へ視線を送った。つられてゼクシオンも部屋の隅を見る。水を受けて濡れた葉は一段と鮮やかに見え、土の匂いとその青臭さを一層強く発している。それがまた、気に入らない。
「随分大事に扱うんですね。やっぱり属性で惹かれるものなんですか」
口調に棘があったと自覚しているが、マールーシャは何故だか楽しそうに微笑むばかりだ。何が可笑しいというのだ。
「直に終わるから」
水遣りのことだろう、質問はかわされたが、マールーシャは腕に力を込めるとゼクシオンを抱いたまま花たちの方へとまた戻っていく。半ば引きずられるようにしながら仕方なくゼクシオンもそれに従う。甘く香るのは眼前の生花からだろうか、それとも。
抱きかかえられた腕のなかにおとなしくおさまって、如雨露の水が尽きるのを黙って待っている。
*お題はとても曲解しています。
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今日の116
隣に座って携帯ばかり見ている相手にスタンプを送り付けてみる。なんだよ、と笑ってくれたので嬉しくてスタ爆したらめちゃくちゃ擽られて携帯を取り上げられた。もっと構ってよ。
(スタ爆…?)