014 ソファでくつろぐ
その日もゼクシオンは読みかけの本をもってきて、マールーシャの部屋ですっかりくつろいでいた。ソファの右端が自分の定位置だ。ひじ掛けのところにクッションを立てかけて、もたれるようにしながらしおりを挟んだページを開いた。音楽も書けない静かな空間に聞こえるのは、ページを捲る乾いた音と、マールーシャがパソコンに向かいキーボードを静かにたたく音だけ。
外の天気は悪かった。重たく雲を纏う空は今にも雨が降り出しそうだ。風も強く、時折吹き付ける風がカタカタと窓を揺らしては音を立てた。部屋は暖かいはずだが、心持ち肌寒い気分になる。
「……なんだか寒いですね」
何故か外が気になって窓の方を見ながら呟くと、そう?とテーブルの方からマールーシャが声を上げた。手が離せないのか、タイピングの音が途絶えない。
「エアコンの温度あげていいぞ」
画面にくぎ付けになったままマールーシャが声をかけた。それほどではないんだよな、と思いながら曖昧に返事をしてそのままゼクシオンは再びソファに沈み込んだ。読みかけの本はなかなか進まない。
やがて席を立つ音がした。こっちにくるかな、とゼクシオンは顔を上げるも、部屋を出たようでそこにマールーシャの姿はない。なーんだ、とまた本に目を落とした矢先、程なくして足音が近づいてきてマールーシャが傍まできた。見上げるとその腕に何か抱えている。はい、と渡されるがままに受け取ると、ふかっと柔らかい感触。それはたたまれたブランケットだった。
「膝にかけたらいい。足首まで覆うと暖かくなるだろう」
親身なマールーシャに、そこまでするほどではないのだ、などとは今更言いだせず、ぼそぼそとお礼を言ってゼクシオンはブランケットを広げた。布の中に足をしまい込むようにしてみると、なるほど暖かい。ひとりで暖を取るのにはいい手段だ。
マールーシャはまた仕事に戻るのかと思いきや、そのまま隣に座った。おや、と思っているうちに、ブランケットの裾を持ち上げたかと思えばそのままずいずいと入り込んでくる。
「ちょっと、狭い」
「これで、あったかくなった?」
そう聞くマールーシャはどこか楽しげにこちらを覗き込んでいる。
「……あついですよ」
ゼクシオンは顔を伏せながら答えた。マールーシャは笑っているだろう。ずるいとおもった。ブランケットなんてなくたって、最初からそうしてくれたらよかったのだ。
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今日の116
ソファでくつろぐ。つい「寒い」と呟いたら相手がブランケットを抱えて寄ってきた。隣にくっついて一緒にブランケットに包まりながら「あったかい?」って聞くのは正直ずるいと思った。