015 チャーハンを作ってみた

「カップラーメンチャーハンて知ってますか」
「……カップラーメンなのかチャーハンなのかどっちなんだ」
「カップラーメンでつくるチャーハンですって。ネットですごく話題なんです」
「お前は意外とそういうジャンクなものが好きだよな」

 マールーシャはそういってゼクシオンの手の中にあるそれをじっとみくらべた。カップ麺が二つ、その手の中に納まっている。

「カップ麺の具材を砕いたものをごはんと炒めて味付けにするんですって」
「ふーん」
「今日のお昼はこれです。一緒に作りましょう」
「まあ構わんが」

 二つのカップ麺の塩分量は気にならなくもない数値ではあるが、ゼクシオンが楽しそうなのでマールーシャも悪い気はしなかった。何事も挑戦するのは良いことである。
 味付けの部分をカップ麺の具材で賄うらしく、カップ麺のほかに必要なものはごはんと卵のみとシンプルなレシピだ。コンビニで手軽に買える商品を使って作れる本格炒飯、といったところで、馴染みの風味を自炊で再現できるレシピとして学生の間でも話題沸騰中のようだ。

「カップラーメンの味、どれが好きですか」
「あまり種類を知らないが……シーフードはうまいな」

 カップの中身をポリ袋に開けながらマールーシャは答える。これを粉々に砕いて、ごはんと馴染ませるためにしばらく水に浸すらしい。

「わかります。シーフードとカレーはスープも飲める」
「……ほどほどにしろよ」

 元来ゼクシオンは器用な人間なので、時折マールーシャの家に来るとその腕を振るってくれることもままあれど、基本的には一人暮らしの学生なので、つい口出しをしたくなるような食生活がつづくこともそれなりにあるようだった。

「料理、うまいのに」
「まあ、家に一人だとなかなか腰が重いというか」
「なるほど二人ならいいわけだな」
「……ふふ、どうでしょうね」

 砕きおわった具材をカップに戻すと、浸るくらいの水を注いで準備完了。油を敷いたフライパンが熱くなるのを待って、溶き卵とご飯を炒めていく。全体に油が回った頃合いで、カップ麺の素を流し込んだ。立ち上る香りは完全にカップ麺そのものである。

「これ麺ごと入れてよかったのか?」
「いいんです、意外と麺の食感は残らない、らしい」
「らしい?」

 一抹の不安を抱えつつも根気よく炒め続けると、やがて麺はぱっとみただけではわからないくらいにまで米と馴染んでいった。話題になっているだけあって、意外としっかりチャーハンの顔をしている。

「正直チャーハンは作るの苦手なんですよね。ご飯がうまく炒められなくて」
「パラパラにならないというやつか」
「そう。あと、鍋振るのも難しい……ああ、ほら」

 チャーハンを作る映像で必ず出てくるあれにゼクシオンも挑戦するが、着地に失敗して少し米が場外へでてしまった。

「慣れないことはしないものですね。ああ重たい。炒めるの、代わってください」

 フライパンを五徳の上においてゼクシオンはマールーシャに場所を譲った。フライパンを手にして仕上げに入る。

「溶き卵を最初からご飯にかけて馴染ませておくと炒めた時にばらけやすいかもしれない」
「なるほど。今回もカップ麺の水気のおかげかやりやすかった気がします」
「鍋を振るのは上達したいなら生米で最初は練習するといい」
「貴方が上手だからそれはお任せしますね」

 チャーハン係、とゼクシオンは笑う。なんだかんだで終始楽しそうだった。
 出来上がったチャーハンは、お椀に詰めてから平皿にひっくり返して店で出されるそれのように見た目もこだわった。いただきます、と手を合わせてから、スプーンで掬ったそれを、ひとくち。

「……おお、ちゃんとチャーハンだな」
「麺の食感、本当にないですね」
「味は気持ち濃いかな」
「僕これ好きだ」
「はまりすぎるなよ」

 なんて保護者面してしまいながらも、一緒にキッチンに立つのはたのしかった。

「また何かあったら、作ろうか」

 一緒に。そういうと、ゼクシオンもまたはにかむようにして頷くのだった。

 

「ということでほかの種類も買ってみたので、次回はどれにします」
「おい待て」

 そんな休日の昼下がり。

 


今日の116
チャーハンを作ってみた。パラパラふわふわにしたくてフライ返しに挑戦。失敗してお米を散らかしたけど、出来栄えは上々!おいしかったね。