016 オムライスを作ってみた

「今日はオムライスをリクエストします」

 とある休日、そう言いながらゼクシオンは材料を買って家に上がり込んできた。
 先日一緒にキッチンに立ったのが気に入ったのか、時折メニューを考案しては休日の食事を作ることが最近の新たな二人の時間の過ごし方だ。メニューは時としてネットで得た情報からの創作メニューだったり、一般的な家庭料理だったりと彼の気分によって決められる。本日は後者のようだ。意外にもジャンクフードを好む彼に健康的な食事をさせたいマールーシャとしては色々な面において都合のいい企画だった。

「卵を一度に二個以上使うのってなんだか贅沢すぎて躊躇われませんか」
「分かる気もする」
「でも今日は一パックあるので遠慮せず使いましょう」

 ゼクシオンの楽しそうな様子を見て、そろそろ揃いでエプロンでも用意してみたらいいかもしれない、とマールーシャは買い物袋を受け取りながら考えた。

 

 

「そういえば生卵って脆く見えて意外と素手では握り潰せないらしいですよ」

 卵をマールーシャに渡しながらゼクシオンは何気なくつぶやいた。インターネットでみた他愛ない話題だった。

「ほう、やってみようか」
「パスカルの定理だとか、一説には卵に対して心理的抑制がかかるからだとか。よっぽどの握力でないと無理――」

バキャッ

「……」
「割れたが?」
「え、人間じゃなかったんですか」
「潰してはいないぞ、ひびは入ったみたいだな」

 そういいながらマールーシャはそっと手を開いて確認する。手の中でぎりぎり原形をとどめているのをみるに、恐らく黄身は無事だろう。

「コツは躊躇わないことだ」
「今後必要になることもないだろうアドバイスをありがとうございます」

 潰しかけた卵をボウルに取り、綺麗に殻を取り除いて使える状態にまで修復することができた。

「余計な手間だったな」
「全く、普通に割ればいいんですよ。貸してください」
「誰のせいだと」
「――あ、みてこれ」

 ゼクシオンがはしゃいだ声を上げるのでボウルを覗き込むと、珍しいことに小さな黄身が二つ並んでそこに生まれ落ちていた。

「双子ちゃんですよ」
「……かわいいな」
「生卵に可愛いも何もないでしょうに」
「お前のことを言っている」
「は?」
「双子ちゃんて」
「……」

閑話休題。

「なんちゃってオムライスなら作れますよ」
「なんちゃってとは」
「ケチャップライスの上に、平たく焼いた卵焼きを乗せてそれっぽくする技です」

 バターの焦げるいい香りにうっとりとしながら、ゼグシオンはフライパンに流し込まれる卵液を見つめていた。中まで火が通ってしまわないよう、強火で一気に表面を固めてすぐにまとめてしまうのがコツだ。

「なるほど、包まないのか」
「被せてしまえば見栄えは同じですから。あとはケチャップで何か書いて誤魔化す」
「十分だろうな。あ、皿を取ってくれ」

 フライパンを火からあげて、先に出来上がっていたケチャップライスの上にふわっとオムレツを乗せた。わくわくしているゼクシオンにナイフを渡す。オムレツを縦断するように刃を入れると、見る間にとろりとした卵が流れるようにライスを包み込んでいった。我ながら大した出来栄えだ、とマールーシャも満足げだ。

「お見事です。早く食べたい」
「ケチャップで何か書かないのか」
「あ、書きましょうか」

 思い出したようにゼクシオンは嬉々としてケチャップのボトルを手に取った。

「何をご所望で」
「絵心があるのか?」
「絵心はないですけど」

 そういいながらゼクシオンはに、と笑う。

「せめて愛は込めて差し上げますよ」

 


今日の116
オムライスを作ってみた。卵を割るだけなのに大惨事!もうひとつ、今度は慎重に割ってみると黄身が2つ入ってました。ラッキー!