027 熱を出して寝込む2
「風邪だな」
「……わかってます、そんなこと」
不機嫌そうにそういうゼクシオンの声は鼻声だ。顔は赤く火照り、鼻が詰まっているのだろう、口を薄く開いて浅く呼吸をしていた。
体調不良で休みと聞いて、マールーシャはゼクシオンの私室まで様子を見に来たのであった。悠々と扉をくぐって入ってくるマールーシャをゼクシオンは恨みがましげに睨んでいたが、追い出す気力はないのかそのまま入室を許していた。
「先日雨に打たれたのがいけなかったな」
大雨に打たれながら任務をこなした日を思い出しながらマールーシャは思案した。冷たくて重く濡れたコートをいつまでも身に纏っていたせいで冷え切ってしまったのだろう。
「安静にしていたらすぐ良くなるだろう」
布団をかけ直しながらマールーシャは手袋を外すとゼクシオンの額に手を当てる。手のひらにじんと響くような熱を感じたが、すぐにゼクシオンはその手から逃れるようにふいと横を向いてしまった。
「製氷機先輩に氷をもらってこようか。もしくは水の先輩に看病してもらうとか」
「勘弁してください」
心底うんざりとした声を出しながらゼクシオンは布団を頭までかぶった。そっとしておいた方がいいのだろう、とマールーシャは腰掛けていたベッドから立ち上がると、厨房にでも行って何か冷たいものを拝借してこようとかんがえながらドアに向かう。
「ちょっと」
か細い声が聞こえるので振り返ると、布団から目だけのぞかせているゼクシオンが見えた。
「どこに行くんです」
「濡れタオルでも作ろうかと」
「そんなの後でいいですから」
そう言ってゼクシオンはもぞもぞと手を出すと、今までマールーシャが座っていたところをぽんぽんと叩いて示した。思いがけない要望にマールーシャはおや、と目を瞬いた。どうやら今日は甘えたい気分らしい。
踵を返すとマールーシャは再びゼクシオンのベッドに腰掛けた。満足したらしく、ゼクシオンはベッドの中で大人しくなる。するすると布団の中に戻っていく腕を追いかけるように、マールーシャはそっと布団のわきから手を滑り込ませた。布団の中は熱がこもってあつい。火照った手を見付けると、そっと握った。熱のこもった瞳がマールーシャを見上げていた。
「少し寝たらいい。起きたら何か食べたらいいだろう。粥でも用意しよう」
サイクスが、と胸の内に付け足しながらマールーシャは空いた手を伸ばしてゼクシオンのばさばさと乱れた髪を梳くように撫でた。「おかゆ」と呟くゼクシオンは、心なしか少し嬉しそうに見える。そうしてそのまま安心したかのようにゆっくり目を閉じた。
うつらうつらとしているゼクシオンが寝入るまでマールーシャはそのままゼクシオンの手を握っていた。布団の中で握った手は汗ばむほど熱い。寝顔はどこか幼くも見え、普段冷酷非情な策士様も実はまだ年若いのだということを思い出させられたりもした。
時折呼吸が苦しそうな様子を見ると、早く回復することを祈らずにはいられなかった。
*サイクスを機関のママにしたがり。
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今日の116
熱を出して寝込む。珍しく甘えてくるので寝るまで手を握っていてやる。寝顔がちょっとしんどそうでかわいそう。早く良くなってね。