036 冗談半分で壁ドンを試す
「男らしからぬ腕だ」
「うるっさい! だいたいどうして僕が……!」
吐き捨てるように言いながらゼクシオンが睨みつけるが、マールーシャはどこ吹く風だ。
「最初に説明しただろう、勢いよく壁際に追いやられると心ある者はときめくらしいと」
ラクシーヌから聞いた、とマールーシャは何故か得意げに話す。
「ならば試してみようと」
「何故それを僕らで試そうと思い至ったのか」
「しかし、見込み違いだったか……」
納得いかなそうなマールーシャをみて、ゼクシオンは少し俯いて呟いた。
「……、こういうのって、貴方がやったほうがさまになるんじゃないですか」
ぼそぼそと言いながらちらりと視線を送る。それを受けたマールーシャは、ほう、と思案する素振りを見せてからぽんと手を打った。
「なるほどわかった、ならば私が座ったらいいだろう」
「何もわかってませんねこの単細胞」
何もわかっていなさそうな様子でマールーシャは壁を背にして床に座り込むとゼクシオンを見上げた。
「さ、もう一度頼む」
準備万端とばかりのマールーシャを前に、ゼクシオンも渋々ながら再び向き合った。立っているとさすがに目線が違いすぎるので、自分は膝立ちになりながらマールーシャの足の間に入り込む。両手とも壁につくと、大柄なマールーシャもなんとか腕の中に収まった。
「これでどうです」
こんどはほとんど真上から見下ろすようにしてマールーシャを覗き込んだ。ぱちりと両の目があう。あ、綺麗な青。ゼクシオンはその瞳の色に吸い込まれるように見入った。耳に掛けていた前髪がぱらりと落ちてマールーシャの顔にかかる。
「これは」
見つめ合ったままマールーシャはうっとりと言うと、自分の腕を伸ばしてゼクシオンの首に触れた。
「思った以上に……いいな」
「なっ」
不意にマールーシャが腕に力を込めるので、あわや触れてしまいそうなくらい近くまでゼクシオンは引き寄せられる。すっとマールーシャが目を閉じるので、慌ててゼクシオンはそれを避けた。
「何故避けるんだ」
「からかうのは止してください! もう満足したでしょう」
「あ、おいまて」
壁際に追い詰めた後の展開なんて聞いてなかった。急に雰囲気が変わった相手に心臓がうるさく鳴りだし、逃げ出そうとゼクシオンはマールーシャに背を向けた。が、数歩進んだところで行く手を阻まれる。地にまで響きそうな轟音が響いたかと思うと、いつの間に回り込まれていたのやらマールーシャがゼクシオンの前に立ちはだかっていた。その拳が壁にめり込んでいることに遅れて気が付くと喉からひぇっと声が漏れる。
「そういえばこの後はどうするのか教えていなかったな? ゼクシオンよ」
ゼクシオンを追い詰め爛々と光るマールーシャの目は、完全に狩る者の目だった。
*11に壁をぶち抜いてほしかった
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今日の116
冗談半分で壁ドンを試す。ふざけていたのに「まずい、どきどきする」とか言い出したので中断。こっちまでどきどきする。