039 お互いの好きなところを10個以上言わないと出られない部屋
「詰みました」
「諦めるのが早すぎるぞ策士」
「十個もあるはずがないでしょう」
「失礼な奴だな」
呆れてマールーシャはゼクシオンを見下ろした。イラついた様子でゼクシオンは唇を噛んでいる。
「だが、そういう素直じゃないところも好きだ」
「は?」
ぎょっとして振り向くゼクシオンに向かって言いながらマールーシャははニヤリと笑ってひとつ指を折った。あと九つ。
「……もう始まってるんですか」
「長居は無用だろう」
二人きりの時間は貴重だが、いくら二人きりとはいえこの得体の知れない空間は居心地がいいとも言い難い。どうせならさっさと済ませて私室にでも移動したほうがいい。
マールーシャは渋い顔をしているゼクシオンのことは気にせず思い浮かぶまま羅列した。
「綺麗な顔立ちは素直に好みだ。
あとは声、艶のあるいい声をしている。
研究に取り組む真面目な性格は好感が持てるな。
頭の回転が速いところはさすがといったところだ。
トップクラスの魔法力、若いのに見事だと言わざるを得ない。
狡猾さも頭の良さ合っての計算高さが見て取れて、毎度舌を巻く。
一方で誘うときの仕草視線は人知れぬ妖艶さがあってそそられるな。
口ばかり達者なくせにキスは下手だが、それも初心(うぶ)で悪くない。
身体の相性はいいだろうな、もうお前以外考えられなくなってしまったから」
指折り数えながらひとしきり述べた後、ふうと息を長くついてマールーシャは苦笑した。
「……十は確かに多いな」
「……心がなくてよかった。聞いているだけで羞恥のあまり死んでいたでしょうから」
「そうは言ってもお前も同じことをするんだぞ」
そういうとマールーシャは身をかがめてニヤリと意地悪く笑った。
「さあ、聞かせてもらおうか」
ゼクシオンはぶすっと不貞腐れたような顔をしてたが、壁を睨みつけても何もないのを見ると、やがて渋々と口を開いた。
「…………顔」
「うむ」
「……」
「……もう少し何かあるだろう」
「声、髪質、目、睫毛、」
「ちょっとまて、適当にパーツを並べて済ます気じゃないだろうな」
「手、腕、指、骨格」
「おいこら、なんだ骨格って」
「いまいくつです」
「……九つ」
「あと一つですか」
完全にやっつけ作業でなんとか捻りだそうとしているゼクシオンをマールーシャは呆れかえって眺めていたのだが……
「……体温」
「は?」
「寝るときに、貴方の体温があった方が寝やすいです。あたたかいから」
予想外の回答にマールーシャが返す言葉を失っていると、背後から鍵の開く音が鈍く響いた。ゼクシオンは顔をのぞかせて脱出口を確認すると安堵した様子を見せる。
「ああよかった、開いたみたいです。……こんなんでよかったんですね」
ぼそりと付け加えるようにつぶやいてからゼクシオンはやれやれと頭を振って出口に足を向けた。
「さっさと出ましょうこんなところ……何してるんですか、立ち尽くして」
「なんで最後にそういうこと言うんだお前……」
立ち尽くしたまま頭を抱えているマールーシャに、ゼクシオンはわけがわからず首を傾げた。
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今日の116
お互いの好きなところを10個以上言わないと出られない部屋に閉じ込められる。すぐに浮かんだけれど口に出すのが照れくさくて時間がかかる。