042 寄り道してクレープ屋さんに行く
辺りから敵の気配が消えたのを確認して、気だるげにいいながらマールーシャは鎌を振った。軽々と振りまわしているが、十キロは軽くあるであろうそれが空を切る音は重たく鋭い。
派手に武器を扱う様子を白々と眺めながらゼクシオンもぱたりとレキシコンを閉じた。
「……貴方と組むと早く終わりますね」
「それは褒め言葉と受け取っていいのだろうか?」
「もちろん。優秀な後輩で助かりますよ」
珍しく賛辞の言葉など口にするゼクシオンにほう?とマールーシャは武器を手の内に納めると、ゆったりとした足取りで近づいてきて上から覗き込んだ。
「何か企んでいるな? 策士よ」
ゼクシオンはにこっと笑みを見せてから、囁くようにマールーシャに吹き込む。
「任務も早くに済んだことですし、どうです? このあと、二人で」
そう言いながらゼクシオンは一歩近づくと、マールーシャのコートの金具に指を絡めた。ちゃりちゃりと指先で弄ぶさまはどこか妖艶で、マールーシャはゼクシオンの誘う目つきをまっすぐにとらえて目を細める。それは、肯定の合図だった。
*
「ああよかった。今月から新発売なの、ずっと気になっていたんですよね」
達成感に満ちた様子でゼクシオンはベンチに腰掛けた。いつもより明るい声色のゼクシオンの手に握られているそれは、お馴染みのシーソルトアイス。遅れて隣に座るマールーシャの手にも似たようなものが握らされている。
「たかがアイス如きになぜあんなに並ばされたんだ」
不機嫌な声を隠そうともせずマールーシャはゼクシオンを睨みつけた。素知らぬ顔をしてゼクシオンはもうアイスにかじりついている。
誘いに乗ったとわかるやいなやマールーシャは連れられるがままトワイライトタウンに来て、言われるがまま長蛇の列に並び、指示されるがままカラフルなアイスを注文させられていた。早く済んだとはいえ任務をこなした後の行列は身に応えるものがある。
「期間限定なんですよ。抹茶味とチョコレート味。今しか食べられないから」
「マッチャってなんだ……」
この緑色がそうなのか、とマールーシャは自分の手が握るアイスをじっとみた。いつもの爽やかな水色とは違い、濃厚な緑色がそこにあった。
「何をそんなにむくれてるんです。先輩の奢りですよ」
「ありがたくて涙が出るよ」
ため息をついてマールーシャは緑色の先端を少しかじった。色に違わず味も濃厚。以前口にしたシーソルトアイスの軽い歯ざわりとは違い、こっくりとしたクリーム状のアイスがとけて口の中に広がる。
「どうです」
「甘い」
「一口ください」
辛抱堪らんとゼクシオンはマールーシャが手に持ったままのアイスを自分の方に引き寄せてかじりついた。
「濃厚。こっちのほうが好きです」
交換しましょう、とゼクシオンは自分の食べていた青いアイスを差し出した。
「これはいつものやつか?」
「なかにチョコチップが入ってるんですよ」
「え……うまいのかそれ」
「ノーコメントで」
「……」
なんだかんだいいながら数度にわたりアイスを食べ比べたりして、やがて二人の手には木の棒が残るのみとなった。
「今日は外れだったな」
「そんなものですよ」
屑籠に残骸を捨てたマールーシャが戻ってくると、満足そうにゼクシオンが声をかける。
「付き合ってくださりありがとうございます」
「一人で来ても良かったんじゃないか」
「一人で二本はさすがに多いでしょう」
そうだろうか?マールーシャがあまり食べ進まないうちにゼクシオンは一人でどんどん食べ進めていたように思ったが。
「それに、一人だとつまらないですよ」
不意にゼクシオンが手を伸ばしてマールーシャの顔に触れた。何事かとぎょっと振り返ると、指先が拭うように口元をなぞった。ついてますよ、と意地悪く笑うゼクシオンの指先に、さっきのチョコチップがついている。ばつが悪く顔をしかめているマールーシャの横でくすくすと笑っていた。なんだか今日は機嫌がいいらしい。
「もう少しだけ休んでから帰還しましょうか」
ゼクシオンはまっすぐ前を向いたまま、背もたれに寄りかかりながらそう言った。西日を受けた髪の毛が優しく光を放っているのを、マールーシャは目が離せず見つめていた。
同じく期間限定アイスを食べに来た81314にうっかり目撃される。
13「なんであの二人が一緒にアイス食べてるんだ?」
14「アイス半分こしてる、仲いいね」
8「しっ、みちゃいけません」
*お題は曲解しています
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今日の116
寄り道してクレープ屋さんに行く。抹茶とチョコで迷っていたら両方買って半分こしてくれた。どっちもおいしい。え、クリームついてる?早く言ってよー!