051 窓際の日向でくつろいでいるのを発見

 いい天気だ、と窓から陽が差し込むのを見ながらゼクシオンはぼんやりと思った。家にいるにはもったいないと思う人もいるだろうが、自分は自宅で過ごすのにもいい陽気だと思う。明るい陽の入るキッチンで、くつくつと音を立てているコーヒーメーカーのそばに立って、ほんの少しずつコーヒーが出来上がっていくのを待つ時間は贅沢なものだ。眠気の覚めるような香ばしい香りが部屋中に広がっていく。華やかな紅茶のフレーバーもいいけれど、粗く挽いた豆の香りや、一滴ずつ落ちていくどこか厳かな雰囲気はコーヒーの持つほかにない魅力だ。

 出来上がったコーヒーを二つのマグに注いでから、注意深くリビングまで運んだ。ソファに座って待っているはずの恋人の後姿は見えない。いつの間に部屋を出たのだろう、と思ったが、覗き込んでみるとソファの向こうに桃色の髪の毛がふわふわと跳ねているのが見えた。安心して近付いていくと、窓際で床に座り込んだマールーシャがカーペットに雑誌を広げていた。さっきまでソファにもたれて雑誌を読んでいたのにな、とゼクシオンはカップをテーブルに置いてその背中越しに雑誌を覗き込む。

「こんなところで何してるんです」
「雑誌を読んでいる」
「それは見たらわかりますよ」
「ここが日当たりがいいんだ」

 マールーシャは雑誌に目線を落としたまま答えた。大きな窓から入る日の光が燦燦と部屋に広がっている。ふうん、と言いながらゼクシオンは後ろに並ぶように床に腰を下ろすと、広い背中にそっと両の手のひらを置いた。

「……本当だ、暖かい」

 暖かいところを求めて日当たりのいいところで背中を丸めて寛いでいるマールーシャは、なんだか猫のように思えてちょっと微笑ましい。なんて考えていた矢先、不意にマールーシャは雑誌から顔を上げると振り返ってゼクシオンを見ていった。

「猫のようだな」
「え? 誰が」
「お前が」

 同じことを考えていたことに驚くのと同時に、何故自分が、とゼクシオンは目を瞬かせた。

「暖かさに惹かれてすり寄ってくるところ」

 そう言って伸びてきた手がゼクシオンの髪の毛をそっとさらった。背中に置いていた手を慌てて離すと、あ、もう少しそのままで、とマールーシャは引き留めた。

「もう読み終わるから、そうしたらコーヒーにしよう」

 ゼクシオンが頷いてそっと手のひらを背中に戻すと、マールーシャは満足したようにまた雑誌を読み始める。
 少し手持無沙汰だったが、まあいいか、あたたかいし、とゼクシオンは日の光をたっぷり浴びたあたたかい背中にそっとよりかかった。

 


今日の116
いないなと思ったら窓際の日向でくつろいでいるのを発見。床に座っているからソファを勧めたらここが一番暖かいからと言われた。猫みたい