054 たこ焼きを作ってみた

「男らしく一口で行きましょう」
「臨むところだ」

 

 たこ焼きを食べたことがないなどとゼクシオンが言うので、マールーシャはそんな馬鹿な、と耳を疑った。誰しもが幼少期に屋台で目の前にして焼かれるそれを口にしたことがあるものだと思っていた。

「……そういうの、行ったことがなくて」

 ばつが悪そうにゼクシオンは言って俯くので、ふむと思案しながらマールーシャは立ち上がると納戸の中を探りだす。参加した結婚式の二次会の景品で当てたというその機器は長いことしまわれたままになっていたが、ついに日の目を見る時が来たのだ。
 よくたこ焼きパーティーなどと浮ついた言葉を耳にするとき、たいていそこに集う人数は四人とか五人とかそれ以上のものだろう。二人きりで開催されるパーティーはささやかなものではあるが、提案したときにゼクシオンがすこし嬉しそうな表情を見せたので、マールーシャがあれこれと手配をして決行に至った。
 スタンダードな具材のほかに変わり種も用意して、ささやかな会はそれなりに盛り上がりを見せた。

「なんですこれ、甘い匂いがする」
「チョコレート」
「は?」
「生地は小麦粉だろう、ケーキと変わらないと思って」
「とんだチャレンジ精神ですね…………あ、おいしい」

 ワサビ入りの一品を食べたときは盛大にえずいたものの、終始楽しそうなゼクシオンの様子にマールーシャは安心した。たこ焼き機も本望だろう。

「来年は、屋台で焼いたのを食べよう」

 大量の水を飲みほしてなお咽ながら、ゼクシオンはうっすら涙目でマールーシャを見上げた。

「屋台の?」
「そう。祭りの」
「祭り」

 目が輝いた、ように見えた。表情豊かとはいいがたいが、そのわずかな目の色の変化を見逃さない自信がある。

「隣の県の七夕祭り、大規模にやるんだ。浴衣も着て」
「僕、持ってない」
「買いに行こう、一緒に」

 畳みかけるようにあれもこれもと先の予定を詰めていく。少し戸惑う素振りを見せながらもゼクシオンが来年の夏を思って笑みをこぼすのを見て、つられてマールーシャも相好を崩した。
 来年も一緒に過ごす約束をできたことを噛みしめて、浴衣は何色がいいかと話し始めた。

 


今日の116
たこ焼きを作ってみた。わさびを入れたりチョコを入れたり悪ふざけ。わさびはマズイけど、チョコは意外といける……?今度ホットケーキミックスでリトライします。