060 ハンドクリームを貰う

「ゼク、手出して」

 藪から棒に呼ばれて、何が何だかわからないまま条件反射のように手を差し出すと、マールーシャはなんてことない様子でゼクシオンの手を取った。その手の感触が、あたたかくもぬるりとしたどこか不気味なもので、あろうことかマールーシャはそれをそのままゼクシオンの手に擦り付けてくるのだから、ゼクシオンは思わず声を上げながら縮み上がった。

「な、な、なに……!」
「ハンドクリーム。乾燥してるだろう」

 少し出しすぎたんだ、とマールーシャは悪びれなく笑った。まだ状況を理解できないでいるうちに、マールーシャの大きな手は優しくゼクシオンの手を包みこみ、指の一本一本に至るまでするするとクリームを伸ばしていった。 あれよあれよという間にゼクシオンの手はしっとりつやつやと仕上がり、甘い香りを纏っていた。

「何か一言くらい言ったらどうです……肝が冷えました」
「それはすまなかった。責任を取ろう」

 真顔でマールーシャはそう言いながら握った手をさすった。濃厚と感じたクリームは瞬時に肌に馴染み、二人の手の間にはどちらのものともつかない熱がじんわりと広がっていった。振りほどこうとしても、指までしっかり絡められてしまい抜け出すことは容易ではなさそうだ。

「いい香りだろう、ジャスミンだ」

 絡めた手を引き寄せ、マールーシャはゼクシオンの手の甲を自分の鼻に近づけ深く息を吸った。手の甲に息が当たりこそばゆい。

「……甘すぎます」

 呆れてゼクシオンが言うのも構わずに、マールーシャはお揃い、と頬を緩めた。

 

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今日の116
ハンドクリームを貰う。試しにつけてみようとしたら出しすぎたので相手の手に塗り込む。相手と同じ匂いになってちょっと満足。