062 二人でゲームをする

「……もう一回」

 渋い声を出しながら手札を場に捨てると、ゼクシオンは悔しそうにマールーシャをめ上げた。

「どうぞ、何度でも」

 涼しい顔をしてマールーシャはそう言うと、散らばったカードをかき集めてよくきり、また二人の間に分けていく。

 

 

 急な任務の中止で時間ができたので、部屋に呼びつけて一緒に過ごそうとした。机の上にトランプが置いてあるのを見つけると、ゼクシオンは手に取ってしげしげとながめる。

「珍しいですね、カード遊びなんて」
「ああ、それは、預かっただけだ」
「ルクソードですか。彼らしい」
「二人でいるときにほかの男の名前を出すのはマナー違反だぞ」

 甘い雰囲気に持っていこうとするが、意外にもゼクシオンの興味はカードに向いたままだった。マールーシャの発言をまるっと無視してカードを切り始めたかと思うと、二つの山に分けていく。

「……え、使うのか」
「せっかくですから」

 付き合って差し上げます、という割には楽しげな様子でゼクシオンは手札をマールーシャに渡して席に着いた。手札は五枚。ポーカーだ。
 ほんの少しだけどうしようか悩んだが、マールーシャは素直に受け取ることにしてゼクシオンの向かい側に腰かける。
 最初はゼクシオンが勝ち続けた。運頼りのゲームだと思っていたのに、戦略があるのだろうか、真剣な様子で手札を見つめるゼクシオンに気を取られているうちにあれよあれよと決着がついてしまった。

「お遊びにもなりませんね」

 そういいながらゼクシオンは色の揃った手札を場に広げてると、飽きたのだろうか、チップの代わりに並べていた赤い花弁にふう、と息を吹きかけてその山を散らした。椅子の背にもたれかかり、うーんと腕を伸ばして退屈そうに伸びをする。
 マールーシャはじっとカードを見つめていたが、ほどなくしてよし、と小さく呟いた。場に散った花弁をそっと払うと、再びカードを集めてきりはじめる。

「まだ負け足りないんですか」
「本気を出そう」
「なんですって?」

 眉をひそめるゼクシオンの前に、よくきったカードを配分して置く。

「ベット」
「レイズ」
「……へえ」

 ここまで攻める様子を見せなかったマールーシャが突如として賭けに出たのを見てゼクシオンも目を光らせる。そうこなくちゃ、と目を細めると、ゼクシオンもまたチップを前に押しやって手札に目を落とした。
 そうして仕切り直して以降、打って変わってマールーシャが勝ち続けている。運が巡ってきた……わけではない。場の読み方が格段に変わっていた。駆けるべき時、引くべき時を完全に掌握していた。流れは完全にマールーシャの手の中にある。突然の変化にゼクシオンは戸惑いを隠せず、さらにそこにつけ入るようにマールーシャは容赦なく攻めた。策士、連敗を喫す。

「何を隠してるんです」
「さあ、何のことだか」
「……もう一回」

 渋い声を出しながら手札を場に捨てると、ゼクシオンは悔しそうにマールーシャを睨め上げた。

「どうぞ、何度でも」

 涼しい顔をしてマールーシャはそう言うと、散らばったカードをかき集めてよくきり、また二人の間に分けていく。

 

 

 こんなカードゲームに一日時間を割くとは思っていなかった。想定外の過ごし方ではあったが、ゼクシオンの困り果てた様子を存分に楽しむことができたのでマールーシャは良しとしていた。
 種明かしをすると、これはルクソードのカードなどではなく、アクセルが不要になったからと押し付けてきた手品用のトランプだ。実は裏面の幾何学模様に細工がしてあって、よくよく見ると一枚として同じ柄ではない。その模様を読み解くとカードの柄と数字を見分けることができるというちょっとした品だ。ロクサスとシオンと遊びつくしたからやるよ、とていよく押しつけられたばかりだった。まさか機関の誇る頭脳をお持ちの策士様とこんなに白熱できるとは思わなかった。
 絶対に手の内を明かしてやらむと息を巻いている彼相手に、種明かしをするべきか否か、マールーシャはまだ決めかねている。

 


今日の116
二人でゲームをする。最初は一戦のつもりだったのに白熱しすぎて一日費やす。