066 一日中ごろごろする

 何度目かわからないほど寝直して、ようやくすっきり目が覚めたころにはもうすっかり日が高かった。時計を見ると昼近い。

「もう今日出掛けるのは無理ですね」

 隣の山に話しかけると、無言のまま腕が伸びてきた。捕まらないようにひょいとよけながら、どうします、と聞くと、たまには何もしなくたっていいだろう、とまだ眠そうなマールーシャの声が布団の向こうからゆったりと聞こえた。

「なにか宅配で食べるものをとって、撮りためた録画でも見るのはどうだ」
「……なんて退廃的で魅力的……」

 ベッドのなかで一つのスマートフォンの画面を額を突き合わせて覗き込みながら、食べたいものをあれこれと述べあって好きなだけ注文した。外食の時にジャンクフードは滅多に選ばないのだが、こんな時は何よりも魅力的に目に映った。こんな日もたまにはいいだろう。
 そのあともだらだらとベッドから降りずにこもった熱の中であれこれと話をしていると、やがてインターホンの音が居間の方から聞こえた。思ったより早かったですね、とゼクシオンが布団を捲ってひらりとベッドから降りた。床に落ちたズボンに足を通すと寝室のドアを開ける。

「待て待て待て、その格好で出るつもりか」

 ゼクシオンがそのまま玄関に向かおうとしているのでマールーシャは慌てて飛び起きた。
 ゼクシオンが着ているのはマールーシャのTシャツ。部屋着にと譲ってもらったものだ。部屋で着ている分には問題ないが、サイズはだいぶ大きくて襟ぐりから白い素肌が良く見えるし、今日に限っては赤い痕が点々と目立っている。

「なんですか、ちゃんと上下着てますよ」
「私が出る」
「いいですよ、受け取るくらい」
「駄目だ、どいてろ」
「うるさいなパンツくらい履いてから言ってください」

 ピンポーン、とインターホンが再び鳴った。痴話喧嘩などしている場合ではない。
 結局マールーシャがゼクシオンを押し退けて、薄着ながらも急いで服を着て受け取ってくれた。
 思ったよりもずっしりとした宅配物を部屋に運び入れていれるマールーシャをゼクシオンは不満げに眺める。

「見えるところに痕つけるのやめてくださいよ」
「来客の予定はないはずだったから」
「もう」
「これで機嫌を直してくれないか」

 そういってマールーシャは受け取った箱を開けるとポテトを一本取りだしてゼクシオンの方に向けた。むす、としつつも口元に差し出されたそれにそのまま噛り付くと、いつもなら胸やけしてしまいそうな油の味が、今日はなんだか妙においしく感じられた。揚げたてのポテトに免じて許すことにしよう。

 

*配達員は悩殺された。

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今日の116
二人とも寝巻きのまま一日中ごろごろする。録画していたテレビを見ておいしいものを食べた。