068 内緒で買い物に行く

 百貨店の売り場で、ゼクシオンは一人緊張しながら立っていた。店員が商品の色違いの在庫を探してきてくれるのを待っているところだった。

 

 年上の恋人への誕生日プレゼントに何を送ったらいいのか、てんで見当がつかなかった。彼の身の回りにあるものは何でも上等に見えたし、こだわりがあって選び抜かれたような品々に勝てるものを贈れる自信はなかった。
 もちろん値段や質がすべてではないことは承知している。彼のことだから、贈り物は気持ちが大切だ、とか言うに違いないし、何を贈ってもきっと喜んで大切にしてくれるだろうという気もしていた。でもそれだけでは自分が満足できなかった。やはり、彼に見合うものを何かしら考えて贈りたかった。
 時計は高すぎる、財布もキーケースも愛用しているものがある、装飾品はセンスに自信がない。悩めど答えは出なくて、悩んだ末実際に店舗に足を運んで考えることにした。
 紳士服やら革製品のフロアをあちこち見て回り、値段や品をあれこれ見比べてもどうしてもこれぞと思うものに出会えない。これなら一緒に買いに来て選んでもらった方がいいかもしれない。いや、でもやっぱり……などと煮え切らない思いを胸に抱きながらフロアを後にして、次のフロアでゼクシオンは書店に立ち寄り自分の買い物をした。

 会計を済ませた後だった、不意にレジの並びにあったガラスのショーケースに飾られたそれが目に入ったのは。ぱちんと頭の中で誰かが電気をつけたかのような感覚の直後、ゼクシオンは衝動的にそこにいた店員に声をかけていた。

 

 お待たせしました、と店員が戻ってきたので慌てて背筋を伸ばした。
 箱を開けて見せてもらったそれは、万年筆だ。臙脂色をした太めの柄がライトを浴びてつややかに光り、金メッキのペン先はまぶしいほどだった。そっと手に取ると、指に伝わる確かな重量に高級感を感じた。悪くないだろう、彼も手帳を持ち歩いているし、仕事柄書き物をすることも多いのを知っている。万年筆を持っているのは見たことがなかったし、一本くらいなら持っていてもよさそうに思えた。

「……じゃあ、それをひとつ」

 結局自分の趣味に寄せて選んでしまったが、ゼクシオンは割と満足していた。万年筆なら自分も手ごろなものを何本か所持している。インクを好きな色で揃えるのもまた楽しいものだ。もしも彼が気に入ってくれたなら、いつかインクを共有したりするのも楽しいかもしれない、などと夢が膨らんだ。

 贈り物でしょうか、と聞かれて頷く。店員も微笑みながらギフト用包装紙とリボンの色見本を取り出してきて目の前に広げて選ばせてくれた。
 彼に贈るのにふさわしい色を精一杯見繕おうと、ゼクシオンはこれ以上なく真剣になってのぞき込んだ。

 

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今日の116
内緒で買い物に行く。ちょっと高いものだけど今日は奮発しちゃいます。あ、プレゼント用に包んでもらっていいですか。リボンの色はどうしようかな。