085 ゲームセンターに行ってみる

 通りすがったゲームセンターで、ゼクシオンは闘志を燃やしていた。彼がこういった類の代物に興味惹かれるのは珍しいことで、マールーシャは興味深くその後ろ姿を見守っていた。

「コツは、デミックスに教えてもらいました」

 プライズを睨み付けたままゼクシオンは言う。たまに聞く学友の名前を頭で反芻しながら、マールーシャは真剣な様子のゼクシオンを楽しげに観察する。手には、もうすでに一つ獲得している景品をかかえていた。一抱えほどもあるそれは、食パンの形をしたクッションだ。

「一つあれば十分じゃないのか?」

 そういうマールーシャの声は届いていないようで、ゼクシオンは真剣な面持ちで小銭を投じた。どうしても二つ取ることにこだわっているようだった。面白味もなく全く同じもの。彼用と自分用だろうか。よくわからないまま眺めていると、数度にわたる挑戦の末ついにクレーンのアームが見事に中央を捉えた。食パンがふわりと宙に浮く。お、と声が上がったのは二人同時、アームはそのまま食パンを排出口に放り込んだ。やった、とガッツポーズまで決めるゼクシオンについ噴き出す。

「よかったな」

 マールーシャが袋を広げると、得意げにゼクシオンは戦利品を詰め込んだ。嬉しそうな様子につられて喜んでしまう。

「そんなにこだわるなんて、珍しいな」
「一目惚れってやつです」

 しれっというので内心マールーシャは驚いた。先日の某毛玉と言い、意外とこの手のものが好きなのだろうか。そんなことを考えていると、ゼクシオンがなんてことなさそうに言う。

「これで一緒にサンドイッチになったら、最高じゃないですか」
「サンドイッチになる? 何が?」
「僕と、貴方が」

 妙な提案にマールーシャは言葉を失った。袋の上からその弾力を確かめながら、ゼクシオンはつづける。

「低反発クッション。素材は悪くないですよ、ソファの色にも合いそうだし」

 一人で盛り上がりながらゼクシオンはまだ呆然としているマールーシャから袋を奪って先を歩く。

「なので、早く帰りましょ」

 あどけなさを見せてゼクシオンは笑うと、そのまま一人で前に向き直って歩き出した。
 恋人の珍しい一面にすっかりあてられてしまいながら、彼の望むサンドイッチになるべくマールーシャも足早にその背中を追う。

 

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今日の116
ゲームセンターに行ってみる。ふかふかの食パンクッションふたつが1000円でとれた。ラッキー!帰ったら二人でサンドイッチになる。