090 嬉しそうな顔で帰ってきたので何かと思ったら
早々と任務を終えて一人自室で過ごそうとしていたマールーシャは、予定外の来客に怪訝に顔を上げた。立ち上がって歩み寄りドアを開けると、そこに立っていたのはゼクシオンだ。手には、海の色をしたアイスが二つ。
「どういう風の吹き回しだ」
「期間限定の味が出まして」
「嫌な記憶しかないんだが」
マールーシャの脳裏に、以前妙な味のアイスを賞味したときの記憶が蘇る。ゼクシオンはそんな様子に構わず、ドアの僅かな隙間をするりと抜けて当たり前のように部屋に上がり込んだ。
「何をしているんですか、外は寒いんだから早く扉を閉めてください」
ぼうっとたっているマールーシャに叱責するようにゼクシオンは言い、マールーシャもまた煮え切らない思いで言うとおりにする。なんでわざわざこの部屋に来るのだか。
「ほら、先輩の奢りですよ」
「光栄なことだ」
しみじみと言いながらマールーシャは差し出されるがままアイスを受け取った。期間限定、と言っていたが、見たところ普通のシーソルトアイスのように見える。
ゼクシオンはふるっと肩を震わせると、腕を抱いて辺りを見渡す。
「この部屋寒いですね。何か燃していいものとかないんですか」
「おい、叩き出すぞ」
マールーシャが凄めどゼクシオンはどこ吹く風。ふむ、と悩んだ様子だったが、ふと何か思いついたように靴を脱いでベッドに上ると、腰かけたマールーシャの後ろに回り込んだ。なにごとかとマールーシャが思っていると、背中に圧を感じる。ぴたりと当たる体温。ゼクシオンがマールーシャに背中を預けていた。
「これでいいです。溶けないうちに食べましょう」
「……顔が見えないが」
「ちょうどいいでしょう」
そういうとずしりと体重が加わった。リラックスしているようだ。がさがさとアイスの包装を解く音、シャリ、と軽い咀嚼音に続いて、ほうと息をつくのが聞こえる。
「あたたかいところでのアイスは格別ですね」
「ストーブ扱いか」
苦笑しながらも、マールーシャの頬は緩んでいた。顔も見えないし、所詮アイスが食べ終わるまでの短い時間だ。暖房役も、悪くない。
押し返すようにこちらからも体重をかけると、気を許したかのように相手もまた肩に頭を乗せるその重みが、どこか心地よかった。
*視線の合わない116もまた良き。お題は曲解しています
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今日の116
嬉しそうな顔で帰ってきたので何かと思ったら期間限定の味のアイスを買ったらしい。寒いだろうと思ったけどあんまりいい笑顔で一緒に食べようと言うのでストーブの前で一緒に食べた。おいしかった。