雨乞い - 3/4
ゼクシオンの恋愛対象は同性である。これまでに好意を持った相手も、実際に交際に発展した相手も、全て同性だった。
つまり、ゼクシオンは彼に対して自分と同じなのではないかと思ったのだ。直感だとか、なんとなくわかるといえば聞こえはいいかもしれないが、単に相手が好みのタイプだったから、ただの希望的観測かもしれない。相手の容姿は極めて好みだった。顔立ちは文句なしによかったし、筋肉質な体格の良さが何より興味をひいた。包容力のある人に惹かれがちである。それは精神面だけでなく物理的な面でもそうだった。
けれど、いくら容姿が好みだからといって彼とどうにかなる可能性なんて露ほども考えられなかった。額縁の中の絵画、テレビの画面越しに見る俳優のように、一つ越えられないものを挟んだ先に彼はいるように思えた。それもそのはずで、そもそも知り合いでも何でもない。たまたま街中で見かけただけのひと。そんな彼に対して自分の中に芽生えたのは、お近付きになりたいなどというよりは、遠くから眺めていたいという比較的無害な願望だけであった。
スマートフォンにメッセージの通知が来た。見れば最近頻繁にやり取りをしている相手からのものだったので、ゼクシオンは頬を緩めた。この相手もまたいわゆる“同種”である。こういった世間でいうマイノリティに属する相手と出会うのに以前は苦労を強いられていただろうけれど、現代ではインターネットを介せばいくらでも相手を見つけることができた。この相手ともそういった出会いを求める人間が利用するサイトを経由して出会っている。まだやり取りをして日が浅いけれど、順調にいけばこのまま交際に発展しそうな手応えを感じていた。アプリを通してやり取りを交わしていたのが直接のやり取りに切り替わり、そうして顔を合わせる。好みが合えば交際に発展していく。今やそういった出会いの形は、男女であろうとも一般的になりつつある。
なんとなく、人肌恋しくて。ゼクシオンが相手を探すのはそんな理由だ。将来を誓う相手を探しているわけでもない。優しい嘘で塗り固めたその場凌ぎの言葉くらいがちょうどいい。
メッセージには次の外出の提案と、よければそのまま夜は部屋に来ないか、といった内容がとても行儀のよい文面で書かれていた。二人で会うのは二回目になる。ゼクシオンも特に迷うこともなく快諾した。段階を踏んでいく慎重さが好ましく、けれどそろそろ進展してもいいだろうと思っていたところだ。
相手とは週末に会う約束を取り付けた。交際に発展するのは久しぶりだと思うと浮き足立つものがある。前に付き合っていた相手とは、生活リズムの違いが顕著で連絡がどんどん希薄になり別れた。身体を合わせたのも二度だけ。それももう数年前の話だ。今回の相手は同年代で、話も合うし、とりたてて不満はないどころか真面目なところは好印象だった。彼とならこのまま関係を深めてもいいと思っている。進展を予感させるやりとりに相手も少し高揚しているようで、通話をしよう、と提案してきたのでそれにも応じた。
相手と話しているうちに、コインランドリーで見かけたの彼のことはすっかり記憶の彼方となっていった。こうして実際にやり取りをしている相手の方がよっぽど現実味があるし、きっとこのままこの人と付き合うだろうと考えていた。他愛もない話で夜が更けていく。この人と付き合ったら、そんな平凡なやり取りが日々を彩ってくれるのだろう。穏やかでいいと思った。
――思っていたのに、再会は思いのほか早かった。