花宿す貴方へ - 5/5
自室に戻ったゼクシオンは、一人部屋の中で先ほど幻影を通してみた光景を反芻していた。
止まらない花の嘔吐。吐瀉物を触れさせまいと必死な姿勢。ピースが揃えば簡単に答えにたどり着いた。彼の症状は、恋を患って発症する花吐き病に他ならない。
しかし最初はとても信じられなかった。気高い彼が、一体誰をそこまで想うというのか。
病状が吐血に至るところを見るに、体内は相当侵されていることだろう。仲間の前で平然と振舞うのは困難を極めるに違いない。ひょっとしたら、もう部屋から出てこれないかもしれない、などと思う。暗く狭い部屋の中で、誰にも見咎められることもなく、独り命の限り花を散らすマールーシャを思うと、ふる、と肩が震えた。
「……惜しいですね」
彼の思考を、肉体をも支配するその正体はわからないが――ゼクシオンは目を閉じて再び花を纏う姿を瞼の裏に思い起こす。血に濡れた口元。光をなくし苦しみに歪む目元。自ら吐き散らした花の檻の中で蹲る弱弱しい姿。思わずため息がこぼれた。
「なんて美しいんでしょう、マールーシャ」
血反吐を吐きながら生に執着するその姿はグロテスクで、それなのにとめどなく花を生み出しその身に宿す、どこか神々しくも見えたその光景を思い、ゼクシオンはこみ上げる興奮に身を震わせ腕を抱く。
彼の想いが永遠に成就しなければいいと思う。叶わぬ恋心を抱く彼がこんなにも美しいのだから。
胸に渦巻く歪んだ感情と、ふわりと鼻をかすめる新たな花の香の正体に、ゼクシオンはまだ気付いていない。
20191106