花芽吹く君へ - 4/6
夢を見た。
ゼクシオンは暗い水辺に座って、素足を水に浸していた。目は両目とも健在で、喉の渇きはなかった。まるで足が根のように水を吸い上げているかのようで、嗚呼、遂に僕は花となったのか、とゼクシオンは天を仰ぐ。鬱蒼としたそこは日の光はなく、生い茂る木々の葉は黒々として静かに揺れていた。ここがどこだかはわからない。
不意に雨が降ってきた。目を閉じて自然の恵みを享受する。顔に当たって跳ねる雨が気持ちいい。ところが目を開けるとそれは雨ではなく、銀色に輝く如雨露から降り注ぐ水だった。更には、それを持つ男はよく知った顔だった。
「いよいよ花になった気分ですよ」
ゼクシオンは快活に話しかけるが男は黙ったまま如雨露を傾けるばかりだ。
「そうですね、こうして根を広げて、与えられるがまま水を浴びるだけの生活もいいかもしれない。日の光もあればより良いですね。花はただ咲いていればいい。何の罪も咎もなく、ただ美しく咲いて、愛でられるだけ。貴方がこうやって世話してくれるのも悪くないですよ。僕に宿る花の名は何なんです?」
夢の中のゼクシオンは重荷を取り払ったように軽やかな心持ちだった。水面に足を遊ばせ、両の目で相手を見つめる。
「随分饒舌だな。水を得た魚……いや、この場合は花か」
「馬鹿なことを言っていないで、部屋の窓を開けてくださいよ。あんな暗いところに閉じ込めて。太陽の光と、新鮮な空気、僕が咲くのに必要でしょう?」
男は静かに首を横に振る。
「光を浴びたら成長を早めてしまう。貴方はできるだけ時間をかけて育てねばならない」
「僕が苦しんでいくのを時間をかけて眺めると。なるほど悪趣味ですね」
悪態をつきながらも、夢の中のゼクシオンはこの男との会話を楽しんでいた。
もう一度上を見上げた。如雨露から注がれる水の勢いは徐々に衰えていく。時間がない。
「僕が花になったら貴方、愛してくれますか」
何故そんな言葉が口をついたのかわからない。夢だから何でもありなのだろう、と夢にしてははっきりとした意識でゼクシオンは相手を見つめた。相手も意外な問いかけに少なからず驚いているように見て取れる。
「愛されることを望むのか」
「美しい花になれたら、そんな生き様も悪くないかと思って」
答えると相手も穏やかに微笑んだ。如雨露を傾けると、最後の一滴まで残らず注ぎきった。終わってしまう。水が止むとゼクシオンは現実に似た渇きを覚え始め、干上がった魚のように口を開けて浅く呼吸をした。霞む視界の先で、男が口角を上げて笑うのが見える。言葉が聞こえる前にゆっくりと視界はブラックアウトしていく――。
目が覚めると喉が渇いていて、部屋は暗くて、ゼクシオンは夢を覚えていなかった。でも何だろう、どこか清々しい気分だ。そっと手を伸ばして右目から伸びる蕾に触れる。膨らみ始めた蕾は触れると微かに甘い香りを放った。