いつかまた夢路で - 2/2
おまけ
「そろそろ髪を切ろうと思うんだが」
何気ない調子でマールーシャがそう言うので、ゼクシオンはえっと声を詰まらせてトーストに噛り付く寸前の格好で静止してしまった。
遅い朝食の席での会話の折に、急にマールーシャが切り出したのだ。さっきから何かにつけて彼の言動が夢とリンクしていて、どちらが現実なのかわからなくなりそうだ。
マールーシャはゼクシオンが硬直しているのには気付いていない様子で、顔の横で揺れていた毛束を手でつまんでじっと見ていた。
「さっき触られて気付いたが、だいぶ伸びたなと思って。夏は暑いだろうから今のうちから短くしておくのもいいと思うんだが」
そう言ってマールーシャは、伸びた髪をまとめてくくるように片手で後ろにまとめて見せた。どう思う、とマールーシャが無邪気に聞いてくる。瞬間的に、脳裏に妖艶に微笑む男性の姿が思い起こされた。弧を描く赤い唇まで鮮明に浮かぶ。
「…………そのままでいいんじゃないですか」
ゼクシオンは答えた。脳裏に浮かんだそのシルエットを振り払うように。
「そうか」
マールーシャはあっさりそう言うと、髪をまとめていた手を離した。提案を却下されたにしては、機嫌は良さそうだった。どうやらゼクシオンの意思のほうが尊重されるらしい。
ほどけるようにして桃色の髪の毛が柔らかく広がり、マールーシャの首元が覆われるのを見届けて、ゼクシオンは安堵の思いでトーストに歯を立てる。